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ベイビーブローカーと三人家族

離婚はもう珍しいことではないけれど、当事者にとってはそれまでの日常が瓦解する出来事で、その前後に人生のクライシスを跨ぐのは間違いないと思う。

そんな日々を、嵐の日は身を低く通り過ぎるのを待ち、爪に火をともすとは言えないけど笑慎ましく、ときに感情剥き出しにブチ切れ合いながら、サバイブしてきた三人家族にとって、是枝監督は教祖で彼の作品はバイブルのようなものだ。特に万引き家族は何度見たことか。(この前の地上波は録画して、それぞれがそれぞれ自分のタイミングでひとり再生して見るものだから、箱根駅伝往路復路みたいでウチだけ2夜連続して放映してた笑)

ーなんで、万引き家族すきなの?

ー(長女)出てくる人が普通の顔してるから。

ーうん。分かるような分からないような。

ー(次女)アタシは安藤さくらさんが好きだ。

ーあ、このあと、エッチなシーンになるけど、みんな大丈夫?汗?

ー(長女&次女)大丈夫だよ💢この後子どもが帰ってきて、ウヤムヤニ誤魔化すから💢

ーホッ。なあんだ、知ってた。ならいいやー。

ー(長女&次女)何言ってんだか、チョコレートドーナツ映画館に連れてって見せたくせに💢(冒頭車中ファッカーから始まる)

ーいや、どうしてもママが観たかったんでね。置いてけないしさ笑

病気をしてから、全方位でないけど、怒り以外の感情が深くなり、悲しいと思うと時と場所を選ばず胸から込み上げてくる何かを止められないし、可笑しいときはには腹の底から可笑しさがこみ上げクククッと声に出てしまうし、特に自分の失敗なんかは大大好物でアホやなと思うと笑けて仕方ない。(書いてみて、悲しみは胸から可笑しさは腹からくるのが分かった。齢五十にして天命は知らんが大発見だ!!)


感情失禁と確かに教科書的な脳血管疾患の後遺症なんだけれど、(理性のコントロールが効かなくて感情がお漏らししちゃうなんて、私的には望むところだ)逆に感情が平坦になってしまうこともあり、マリアナ海溝のように感情の淵がザックリえぐれたなら、人としてはこの上ないギフトを病から授かった思う。

内容は是非見ていただきたいので、詳細や感想は鑑賞に余計だと思うので書かないけど、
私的には上半期ナンバーワンで、ってこれ以外はドライブマイカーと、ベルファストと、保健所コロナのドキュメンタリーと、沖縄精神疾患者の座敷牢ドキュメンタリーしかみてないけど汗。映画はこれまでの是枝監督の作品の中で一番好きだ。
テーマは、血縁によらない家族、罪と罰と償い、救い、自己犠牲、嘘、親子、男女、淡々とした日常、失われた日常、空回りする不器用な愛情、破滅に向かい加速する巡り合わせ…観る人によっていくらでも掘れると思うけど。長女曰く、表層的にはいわゆるダークサイドに落ちてしまった人間の愚かしさを描いて、その実人間の優しさや善意を徹底的に信じさせる是枝監督はどんだけ優しいねんと。映像は毎回違った切り口で繰り返し繰り返し私たちに彼の世界観を見せてくれる。

所謂普通の家族路線から脱線したわが家にとっては、癒やしで、かつ塩を塗り込まれるような不思議な映画だけど、三人とも心惹かれる世界だ。

ひとつだけ
見終わって思わず韓国の年間降水量をググッてしまったけど、韓国は決して多雨な地域ではなく、日本より小雨であった。にもかかわらず、雨のシーンが多く印象に強く残り、これはポン・ジュノ監督の作品にも感じるのだけど、心象風景としての雨が素晴らしく、見るものの心にも湿度と雨音を残します。

もう1人の主人公は雨かもしれないなと思うほどだ、と見終わって呟いたら、デジタルネイティブな長女がシレッとググって、うんママと同じこと呟いてる人いるね。と呟く。どこのどなたか判らないけれど、同じものを見て同じようなところに胸掴まれるその感性の震え、瞬き、共鳴に、嬉しくなる夕べに。

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