「憲法修正第4条」 『ダーティハリー』:創作のためのボキャブラ講義34
本日のテーマ
題材
「いきなり押し入って拷問するとは何事だ。医者も弁護士も呼ばないとは。人権を無視してるのか。憲法修正第4条は? あの男にも権利はあるのだ」
「だから私も半殺しにされた」
意味
憲法修正第4条
アメリカ合衆国憲法の権利章典、修正第1条から第10条までのひとつ。いわば憲法に定められた人権保護の具体的な規定内容。第4条はいわゆる令状主義に関すること。
解説
作品解説
銃社会アメリカではマッチョな白人男性が強い銃を振り回しかっこよく活躍する作品が受ける。今もそうだろうが、一時期は特に。そんな時代に44マグナムとともにその名を轟かせたフィクションの人物のひとりがダーティハリーことハリー・キャラハン刑事である。サンフランシスコ市警察の刑事で、人が嫌がる汚れ仕事ばかりをするからその名がついた。
多くのシリーズが展開されるダーティハリーの第一作、相対するのは「さそり座の男」なる殺人鬼。冒頭、いきなり屋上から女性を狙撃し殺害。警察に10万ドルを振り込まなければ次は黒人かカトリックの神父を殺すと脅迫する。そんな犯人を逮捕するべくハリーが動く。
題材となる場面は一度、ハリーが犯人を捕まえた後のこと。礼状もなしに犯人の住居に押し入り、自慢の44マグナムを発砲して犯人を負傷させながら捕まえた。しかし捜査が不当に行われたため、犯人の証言から見つかった凶器まですべて裁判では使用できず、犯人を釈放するしかなくなった、という場面である。
権利章典
憲法修正、と表現されているが厳密には憲法そのものというわけでもないらしい。1条から10条の項目があり、それぞれ憲法が定める人権の保護規定について、つまり具体的な内容が書いてあるという感じだ。
これについて特に有名なのが憲法修正第2条、市民の武装の権利を明記したものだろう。憲法で武装する権利が認められているからこそ、銃規制もなかなか進まない。それこそ修正第4条で示されるように、令状なしに逮捕も家宅捜索もしてはならないという権利と武装の権利が同列なのだから、これはなかなか強烈だ。
権利のありか
しかし本作は鑑賞してみると、一定のどういう層に、どういう価値観を作り上げていたのかがなんとなく見えてくるという意味でも面白い作品である。
いつの時代も主人公の邪魔をする「人権屋」のインテリは鑑賞者の憎悪の対象だ。しかし犯人もかなり間抜けで、味方の刑事もまあまあ間抜けという愚鈍っぷり。どういうことかと思ったが、これは要するにハリーの孤高で破天荒な捜査と、苦心の末捕まえたが頭のお硬い「人権屋」に台無しにされる不条理を演出するためのものだろう。
犯人はこの後、マスコミを騙してハリーをさらに追い詰める。人権を擁護するインテリ、馬鹿で姑息な犯罪者、騙されやすいマスコミとまあ、うん……というヘイト対象でアメリカの「男らしさ」醸造の一場面がこれでもかと分かるのが面白い。
まあハリーが振り回す銃を持つ権利だって修正4条と同じ権利章典から出ている以上、キャラハン刑事に文句を言う資格はないのだが。
作品情報
『ダーティハリー』(1971年製作)
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