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大企業なのに意思決定が速い

レガシーな業界の、それなりに規模の大きい、歴史ある、平均年齢高めの会社に勤めています。そのせいか、どうも意思決定が大変そうというようなイメージを持たれています。

以前登壇した #pmconf2020 でも、前夜祭で「これだけ規模の大きい会社でどうやって意思決定をしてきたのかも見どころ」みたいなコメントをいただいていたようです。また、登壇当日の実況では「このスピード感で意思決定できるのはすごい」というコメントもいただきました。

実際私が pmconf で話した内容には意思決定プロセスに関する話がほぼ無く、そういう意味では期待外れだったかもしれません。ただ、私にとってはこのスピード感は今や普通のことになっているのです。

速そうな会社から遅そうな会社に転職した

私が2年前まで働いていた会社は、それなりに規模の大きい会社ですが、社名に Fast とつくほどスピードにはこだわっていました。組織の階層は比較的フラットで、私の上は部長、CIO、社長というラインでした。世間的にもスピード感があるイメージが強いと思います。

一方で今の会社は、何となく世間的には、普通の(またはちょっと時代遅れの?)大企業という印象があるのではないかと思います。ミルフィーユのような組織階層を持ち、私の上には部長、部門長、本部長、COO、社長、さらに会長がいました(2021年より変更が入り少し間の階層が減りました)。

そのせいか、世間的には何をするにも遅いというイメージを持たれているようです。イベントなどでお会いする外部の方に「意思決定とか合意形成大変じゃないですか?」というようなことをよく聞かれます

特に、私が以前どこに勤めていたかを知る人にはよく「前の会社とは意思決定のスピード感が全然違うんじゃないですか?」というようなことを聞かれます。こういう時、私の答えはこうです。

「そうですね、全然違います。今の会社のほうがめちゃくちゃ速いですよ。

速さの質が違う

私は入社後まず「意思決定のスピードがここまで速いとは」と驚きました。実際のところ、会社全体としてこのような傾向があると言えるのか、それとも私のケースが特殊なのかはわかりません。少なくとも私の身の回りは速いです。

前の会社は皆が速い速いと言っていて、私も実際に速いと思っていたし、前の会社をやめた人達は一様に「比較すると今の環境はスピード感が遅くてすごく余裕を感じる」と言っていました。辞めた人たちのそんな話を聞いていたので、私自身も転職する時には「一体世界はどれぐらいスローモーションになるのだろう」とワクワクしたものです。

しかし私にはそのスローモーションはやって来ませんでした。

今思えば前の会社の速さの源泉は高い実行力によるもので、意思決定だけにフォーカスすると、結局最終的には社長しか決定権を持っていないという状況がプラスにもマイナスにも働いていました。社長の決断は速いものの、社長が決断する状況に至るまでにいろいろな遠回りが発生することが多々あったのです。

今の会社はそれとは質の違う速さで突っ走っています。

意思決定が速くなる理由

意思決定を速くする方法としてよく聞くのが、組織をフラットにして承認経路を短くするということです。それを念頭に考えると、今の会社は私から社長にたどり着くまでに既に間に4人おり、更に会長の位置づけも未だに私にとっては謎で、承認経路がかなり長く圧倒的に不利です。

その圧倒的不利な状況を覆す要素として以下のようなものがありました。

1. 経営層との距離の近さ
普通に距離が近いです。リモートワークをするようになってから直接会うことはなくなりましたが、結構いろいろな会議で一緒になります。それにより、普段から今どういう状況なのか、何に困っているのか、というようなことをすぐにインプットできる状態です。

2. 決める人が明確
誰が何を決めるのかが明確になっています。経営層からは日々大まかなディレクションが来る他に、すんなりと決めるのが難しそうな課題に関しては「これは誰が決めるのか」が示されます。

3. 自分で決められる範囲が広い
ここまでの裁量を持っていいのかと思うほど、いろいろなことを自分で決められます。例えば私が以前ロードマップを大幅に変更した時も、私が経営層にしたのは報告であり、意思決定を仰ぐことではありませんでした。


つまり、社長が何でもかんでも即断即決するタイプの会社ではないのですが、かわりに速く正しく判断できる人に徹底的に権限移譲をしている、そして誰がその判断ができるかは普段から近くで働くことで把握できている状態なのだと感じています。

時間がかかること

とはいえ、信じられないほど時間がかかることもあります。この会社、こういうところは苦手なんだな…というものを挙げます。

1. 明文化されたプロセスがあるもの
取締役会などの決まった会議体での承認が必要なものなど、明文化された意思決定プロセスがあるものは時間がかかります。階層のミルフィーユのひとつひとつで承認を得る必要がありますし、決定の場に持っていくまでの前準備、いわゆる下ネゴも丁寧に行う必要があります。

2. システム化されていないもの
ここに書くのもはばかられるのですが、未だにそれをシステム化していないのかというものが結構あります。そういったものはプロセスがEメールベースで進むので、誰か一人がメールを見落とすだけで大惨事になります。

3. 皆で話し合って決めなければならないもの
どんなオプションがあるのかさえわからない状態のもの、異なる部署間で意見が割れていることなどに話し合いの時間がかかるのは当然ですが、それ以外にも皆で話し合って決めなければならないことがあります。代表的な例は社外のステークホルダーへの情報共有や事前の合意などが必要な事項で、「どの会議体で」「いつ」「誰が」「どういうメッセージを」のような作戦会議に非常に多くの部署の人がかかわり、綿密な計画を立てて臨みます。

4. 決める人が明確になっていないもの
経営層の巻き込み方によっては、決める人が明確に示されないケースがあります。この件について最終的な意思決定をするのは自分だ、と思っている人が複数いる時、特にその人達の意見がコンフリクトする時に、「誰に意思決定権があるのか」または「誰の判断が正しいのか」を決めるための時間が必要となります。そしてその判断は社長などある程度上位のレイヤーに委ねられるので、そこに持っていくための時間が必要です。

5. グローバルチームとの調整が必要なこと
グローバルブランドとしては避けられない宿命ですが、グローバルチームは日本の市場だけを見ているわけではないので、調整ごとには時間がかかります。リクエストを出してもインテイクすらされないこともあります。以前の会社ではグローバル側の立場だったので、そちらの気持ちもよくわかりますが…。

おまけ:ネガティブ要素もポジティブに考えてみた

前述のとおり、グローバルチームとの調整が必要なことについては信じられないほど時間がかかりますしそもそもこちらの意思どおりに進むことが困難な場合もありますが、逆にグローバル企業のローカルマーケットであることでの利点もあります。

それは、いろいろなサービスをグローバルが先行導入しているということです。通常行わなければならない仮説検証の半分ぐらいは既に先行導入時に実施済で、残りの半分、主に日本特有の部分を検証すればよいので仮説検証プロセスは大幅に短縮可能です。日本が先行導入事例になる場合には何もなくなってしまうのですが…。

また、同じく仮説検証に関して言えば、非常にレガシーなシステムが多数存在している関係で技術的な制約が大きく、様々なオプションが考えられたとしても実際にFeasibleなものはかなり絞られます。そういった意味で、「選択肢が狭いことによる決断のしやすさ」というのは存在しています。長い目で見れば残念なことではありますが、瞬発的なスピードに寄与しているのは事実です。

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