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ぼくの『My Safe Place』について(今朝は、ホットコーヒー)

少し、ねむたい。


それとも、そんな気がするだけかな。


自分でも、よくわからない。


足が地に着いていない、ふわふわした感覚だけがある。


夜中に、一度も目を覚まさなかった。


とてもとても、珍しい。ぼくにとっては。


いいことだけど、なんだか、不思議な気持ちだ。

――あ。おはよう、アルネ。

――あら、おはよう。……。

――どうかした?

――ううん。少し前から、寝ぼすけさんじゃなくなったのね、って。

――ああ、うん。よく眠れるようになったみたい。

アルネは、ぼくの顔を覗き込んで、小さく笑った。


ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。

――新しい家は、どう? まだ慣れない?

――慣れたわけじゃないけど……荷物が、ずいぶん片付いたから。だいぶ落ち着く部屋になったかな。自分の部屋とか。

――よかったわね。

――うん、よかった……。

――コーヒーは、また淹れているの?

――うん。また、人前で淹れるしね。

――いただいてもいいかしら。

――もちろん。

色んなことが、まだ片付かない中でも、コーヒーを淹れたり、豆を焙煎したりする道具は、すぐに使えるようにしていた。


親しみのない環境に、いち早く親しみのあるものを。


それはまだ、ぐらぐら揺れている土台に乗るぼくを、安心させてくれた。

――淹れたよ。あたたかいので、よかったかな。

――もちろん。少し、肌寒いもの。

――1階は、日が当たらないから……。熱いから、気を付けて。

――ありがとう。……うん、おいしいわ。

――よかった。……うん、いいんじゃないかな。

――このコーヒー豆は、きみが焼いた豆なの?

――そう。……もちろん、生活に必要なものを用意するのが、先だけど。焙煎器具も、すぐに使えるようにしておいたんだ。いくらか焼いておきたかったし……それに、なんていうか、安心できるから。

――きみが大切にしているものの、一つだものね。

――うん。……うん。本も、そうだけど。外は、ぼくにとって怖いものが、少なからずあるけど。せめて、自分の部屋だけは、安心できるところであってほしいんだ。

――ここは、いいわね。静かで、それに、きみは和室が好きでしょう。

――うん、畳が好き。……自分の部屋が和室なんて、いつぶりだろう。

――好きになれそう?

――この部屋のこと?

――この家のことも。

――うん。……このままずっと、静かに過ごせたら、いいな。

アルネは、同意するように、また微笑んだ。


ぼくも、きっと笑っていた。


静かで、平穏な朝の中。


少し肌寒くて、清浄な空気の中。


ぼくらは、幸せを思っていた。

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