神河救済ストーリー解説 序盤

こんにちは。これは遠い昔に同人誌「じらいげん」に寄稿しようと書きかけていたものの、完成できなかった原稿です(別のストーリー紹介をきちんと提出しました)。ファイルを見たところ最終更新は2008年6月となっていました。その通り少なくとも12年前の文章ですので今より遥かに読みにくいです。もしいつか通常セットで神河次元に回帰することがあれば引っ張り出して完成させるかもしれません。

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~簡単な登場人物紹介~
・梅澤俊郎(《梅澤俊郎/Toshiro Umezawa(BOK)》)
物語の主人公。ただ我が道を往く、ニヒルで不敵な無頼の徒。いつしか世界の運命を握ることに。
・今田魅知子(《真実を求める者、今田魅知子/Michiko Konda, Truth Seeker(SOK)》)
今田大名の一人娘。気丈な美少女。自分の出生の影に隠された父親の陰謀を追い求める。
・今田剛史(《永岩城の君主、今田/Konda, Lord of Eiganjo(CHK)》)
永遠原の大名。昔、隠り世より神を捕らえ、その強靭な身体を手に入れた。
・碑出告(《無情の碑出告/Heartless Hidetsugu(BOK)》)
大峨の呪師。空民に弟子の一人を殺され、復讐の為に水面院を襲撃した。
・切苦(《夜の華、切苦/Kiku, Night's Flower(CHK)》)
竹沼の暗殺者。俊郎とは昔からの付き合い。
・骨齧り(《骨齧り/Marrow-Gnawer(CHK)》)
鼠人の長。
・夜陰明神(《夜陰明神/Myojin of Night’s Reach(CHK)》)
夜及び世界の陰の部分を統べる神。俊郎に様々な力を与える。

・序章・
ここは杉の樹海の何処か。神の乱によってどこも荒れ果てたこの世界において、最後に残った安寧な場所ではないだろうかと思えるような静かで平和な森。そこに魅知子と学友の浬子、そして狐人が集まっていた。彼等は水面院を訪れていたところを碑出告の襲撃に合い、俊郎の力を借りて逃げてきたのだった。そして魅知子が竹沼にいる俊郎に送った伝言の返事を待っている所なのだが、他の皆はあまりいい顔をしていなかった。それもその筈、俊郎は一度魅知子を連れ去っているのだから。
「返事が来る筈なんてないわよ。むしろその方が私は嬉しいわ」
とは浬子。魅知子が伝言を送ったのは数週間前のことだった。竹沼の様子を教えて欲しい、それと新しい依頼をしたいので会いに来て欲しい。魅知子は、俊郎と直接話したいと強く思っていた。竹沼の情勢を聞きたいというのも一つだが、それ以上に彼が手にした「奪われし御物」が気にかかっていたのだった。
水面院において魅知子は、神の乱の原因となった出来事、自分の出生とも深く関わっているそれを知らされていた。彼女が生まれたその日、父親である今田大名が、神々の住まう領域、隠り世から神を捕らえて盗み出したのだった。それは只の神ではなかった。隠り世とこちらの世界、現し世とを隔てる偉大な神、大口縄(おおかがち)の一部だったのだ。それが奪われし御物。大口縄の一部であるそれは、同じ日に魅知子が生まれたという出来事によって、大口縄の「娘」ともいうべき存在になったのだった。そして魅知子は、俊郎が手にしたそれに強烈に惹かれた。手で触れて、その力を感じ取りたい。この神の乱を終わらせる鍵にもなりうる力を。けれど、俊郎や魅知子の師匠の真珠耳は注意深く、常に魅知子からは遠ざけようと心がけていた。そしてそれは多分正しいことなのだろうと彼女も判っていた。
やがて、どこか奇妙な黒い鳥が梢の間から姿を現した。狐人達と浬子は身構えるが、それは伝言を届ける漢字の鳥だった。魅知子が命じると、まぎれもなく梅澤俊郎その人の少し楽しそうな声が流れてきた。
「今すぐにそちらに向かうことはできない。だが、そのうちに必ず会いに行く。竹沼はというと、悪夢そのものだ」
それだけを伝え、鳥は消えた。不安な面持ちの魅知子と、不満そうな浬子。彼女は俊郎の能力を恐れていた。何故なら、俊郎にとって姫との取引はとても美味しいものだというのは明らかであり、彼はまだまだ信用ならない危険な人物なのだから。

・第1章・
神滝。水面院と、頭上には空民の都市、朧宮を望むことができる。
俊郎は最後に一度だけ朧宮を見上げ、地面へと唾を吐いた。この場所は気に食わなかった。そして水面院の入り口へ視線をやり、鮮やかな緑の瞳を光らせる。最早、学院内に生きている者などいるはずは無かった。そして、それならば仕事は容易だ。
注意深く、俊郎は学院へと侵入する。しかし数歩進んだところで、扉から数人の男女が剣を手に飛び出してきた。碑出告の弟子の山伏達だった。咄嗟に避けて、敵意が無いことを示すかのように微笑む。
「俺が誰だか判るだろう? お前達の大峨の元へ連れてってくれ」
そして碑出告の名を出すと、彼等はたじろいで頷いた。
碑出告は、水面院の中心に位置する巨大なホール、磨かれた骨の玉座にいた。その瞳は刀鍛冶の炎のように暗く燃えている。俊郎の姿を確認すると、彼は巨大な歯を見せてにやりと笑った。
「元気かな、古い友よ」
俊郎は、寒気と居心地の悪さを感じた。狡猾で辛抱強くはあるが、彼が恐ろしい大峨である事に変わりはないのだ。努めて平静を装い、それでいて碑出告の瞳をしっかりと見据え、俊郎は切り出した。気をつけなければいけないのは、俊郎の身に氷山の誓約の刺青ははもう無いという事だ。模様を描いて誤魔化しているだけだった。
「復讐は成されたようだが――」
しかし俊郎の言葉に、碑出告は声を尖らせる。
「成された訳があるものか。空民どもはまだ我等の頭の上を遊んでいるではないか、友よ。奴等の災難はこれからよ」
碑出告は再びにやりと笑った。俊郎の背筋を冷たい汗が流れる。碑出告は腕を伸ばし、まるで焚火にくべる薪のように俊郎を掴み上げた。その握力に、肺が潰れないよう耐えるのが精一杯だった。
「我等を朧宮へ」
主の声に応じて5人の山伏が暗闇から姿を現し、彼等の主を俊郎を囲むと詠唱を始めた。やがて、足元から幾段もの輝く歩廊が現れた。それは夕暮れの空、輝く雲間に見える朧宮へと続いていた。
俊郎は碑出告に掴まれたまま、目を閉じて夜陰明神に祈るしかなかった。

・第2章・
朧宮に人の気配は無かった。宝石で飾られた道に、尖塔と円屋根の影を落としている。
「俺を自分で歩かせてくれないか、兄弟」
俊郎の言葉に碑出告は答えない。夜陰明神に与えられた能力によって、俊郎は影から影へと渡り歩くことができる。脱出する為には、自分を掴んだ大峨の手が影に入れば充分だった。
「誰もいないじゃないか」
「ならば待つまでよ」
俊郎は落ち着くよう努め、碑出告とはまた別の意味で待つことを決めた。この大峨とやり合う為にまず必要なのは「急がないこと」であると、彼は学んでいた。
そして太陽が最も高い尖塔に隠れた頃、碑出告が何かを指差した。青玉が敷き詰められた広場に、黒い煙の旋風が巻き上がり、次第に大きくなってゆく。橙色の火花が散り、その中には人型をした何かが潜んでいるのを俊郎は見た。
それは、骨の仮面を被った鬼だった。体格は人間のそれと大差無いが、皮膚は怒りに赤く染まり、体を動かす度に分厚い筋肉が不気味に膨れ上がる。三つの瞳はかすかに赤く光り、額からは長く曲がりくねった角が伸びていた。そして煙の中には、まだ何体もの鬼が控えているのが見えた。
「混沌の鬼が水面院を食らう間、この鬼達には朧宮を狩ってもらう。その眺めを楽しもうではないか」
俊郎は、中庭上空に空民の戦士達が現れたことにも気付いた。彼等は刀で武装し、小さな雲に乗って浮かんでいる。空民は神河の部族の中でも学者として、また戦士として知られ、それ以上に半神聖な存在として敬われている。刀を抜く空民、吼える鬼。俊郎はせめてこの恐ろしい対決を楽しむことにした。
優雅で洗練された動きで戦う空民と、荒々しく恐れを知らない血に飢えた鬼。数で勝る空民と対等以上に戦っていた。それぞれの技量は空民の方が上であろう。しかし混沌の中に生まれた鬼は敵から敵へと、できる限り沢山の血を流そうと言わんばかりに暴れ回る。そして鬼の半数が倒された時には、それよりも遥かに多くの空民が命を落としていた。
「見たか、俊郎。朧宮の者共に、恐怖というものを教えてやらなければな」
碑出告の表情は明るい。その指が緩みはしたが、俊郎を離すまでは行かなかった。

・第3章・
俊郎は碑出告へと、水面院に御物を隠していること、それを取りに行かなければならない事を明かした。碑出告は興味を示したようだったが、首を横に振った。
「俊郎、お前は氷山の誓いの為に動いているのか? それとも、夜陰明神の為か?」
「俺の忠誠は変わってない」
遂に俊郎は、この場から去ることを決意した。水面院へとやって来たはいいが、失敗ばかりは続いていた。御物は確保できず、碑出告に捕まり、そして自分が氷山の誓いから逃れたという事を隠せているのかという確証もない。彼は夜陰明神から授かった力の一つを使うべく、精神を集中させた。
碑出告の拳を氷が覆い、握力が弱まったのを感じた。主が攻撃されていると悟った山伏達が駆け寄るより先に、俊郎は明神の別の力によって実体を無くし、彼等の視界からその姿を完全に消し去った。立ち去る直前に見た碑出告の瞳には、怒りとともに悲しみと失望の混じった、複雑な色が宿っていた。俊郎にも、これは仲間という関係の終わりを示していると判っていた。

朧宮を抜け、俊郎は再び水面院へと入った。御物は以前彼が隠した部屋に、そのままの姿で安置されていた。部屋自体を気にしてはいなかったが、そこは巻物棚がずらりと並んだ、誰かの事務室か私室のように見えた。そして驚いたことにその部屋の机と椅子の陰で、うずくまるようにして隠れている何人もの学徒、今田の侍、狐人がいることに気がついた。
「お前達、一体ここで何をしている?」
彼等に問いかけたが、答えは判っていた。彼等はここでどうにか、碑出告達から隠れ続けていたのだろう。俊郎は彼等のうち、階級が最も上と思われる侍に話しかけた。長雄、と彼は名乗った。
「俺は泥棒さ。この場所を見繕いに来た。俺と一緒に来るのであれば、あんた方をここから安全に逃がしてやれるが」
そして一度姿を消し、長雄の背後の影の中から現れた。用事を済ませたら助けに戻ってくると言い聞かせ、俊郎は今一度水面院を後にした。

・第4章・
竹沼。俊郎にとって、ここは相変わらず嫌な場所だった。神との戦が始まって二十年、竹沼は彼等の攻撃を常に受けている。あちこちに点在する焦げた死体、破壊された住居や寺院がその証拠だった。
彼は沼地の歩廊を進み、呪師達の住処を目指した。やがて乾いた丘の上に、煉瓦と藁で作られた巨大な建物が見えてくる。沢山の煙突が立っているが、煙は上っていなかった。人の気配も無い。
何かがおかしい。俊郎は表玄関に近づくと、扉の蝶番は外れていた。中を覗き込むと、部屋の窓には白い手が引っかかっていた。指の間からは血が細く流れ出している。
俊郎は片手に十手を、もう片手には刀を構えた。神の襲撃か、内輪揉めか、それとも大名の軍勢が攻めてきたのか? 注意深く建物の中に入り進んで行くと、幾つもの死体が転がっていた。いくつかは壁に打ち付けられ、吊るされていた。見せしめだろうかと俊郎は思った。少なくとも、大名のやり方ではない。途中、ある小さな部屋を覗き込むと、そこに転がる死体は背が高く、衣服はより洗練されていた。黒い絹で顔を隠してはいるが、それらは空民だった。しかし、空民の忍が、仲間の死体をそのままに去る事などあり得ない。だとしたら最後に生き残ったのは呪師の筈だ。
突然、壁の後ろから女性の溜息が聞こえた。俊郎は這い寄り、壁を確かめる。程なくして隠し扉を発見し、それを開けた。蝋燭が灯された小さな部屋、供犠台に腰掛けて、切苦がいた。彼女は髪を下ろし、薄い白色の寝間着をだけを身に纏っていた。
「切苦、俺だ。俊郎だ。助けに来た」
「俊郎」
どこか夢見るような、酒の匂いがした。
「空民よ。私達の術は許されないものなんですって。ここを引き払うか、さもなくば。長達は『さもなくば』の方を取ったわ」

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自分でつっこむけど何でそこで終わってるんだよ!! 古い同人原稿はまだ沢山あるので少しずつ公開していこうかと思います。さすがに他所への寄稿や合同誌のものではなく私個人で出したものだけになりますが。