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挽歌であり絶唱の詩

山本かずこ 詩集『恰も魂あるものの如く』(ミッドナイト・プレス)

 冒頭の詩篇から読み始めると表題詩の後に『あとがきにかえて』、これで終わりと思うと「もうひとつの『あとがきにかえて』があった。なんとこれが本書の核となる詩篇で、中原中也の『冬の長門峡』の一節を表題にした詩篇に連携しており、この詩集の魅力に納得がいった。「もうひとつの『あとがきにかえて』は亡夫で刊行社主、山本の詩集のほぼ全てを手掛けたかけがえのない連れあいであった岡田幸文を偲ぶ、詩篇の挽歌であり絶唱であった。〈人の波に乗って遠くの方へと行ってしまった/あなたと/この世で再び会えるという保証はない〉と書いたのは〈一九八九年のわたし〉で、〈先まわりして書いたかの〉ようだった。この茫洋とした感覚は同時に、〈寒くて/長い冬のなかにあ〉る『冬の長門峡』にでもいる気分だったろう。中也の「流れてありにけり」は、水だったか人波だったか。高度な統治法で構成された詩集の印象をもった。

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