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MENA(中東・北アフリカ)専門家によるイラン解説 XI

 葛西さんからソーラー発電によるエネルギーの安全保障についてのコメントをいただきました。このテーマは私がMENA諸国で専門的に取り組んでいる分野ですので、どこまで実現可能かについて大雑把に解説いたします。

1.ソーラー発電で造水する方法の検討

 MENA地域の多くは慢性的な水不足に直面しています。 #エジプト では、 #ナイルデルタ の約360万ヘクタール(四国と九州の中間くらいの面積)でナイル川の灌漑農業が行われていますが、カイロの年間降水量は約20mmです。そのため、ナイル川上流のスーダンが農業用水としてナイル川の水を使用すると、エジプトに壊滅的なダメージを与えることが懸念されており、エジプトと #スーダン の間で#水戦争が勃発する可能性もあります。

 MENA諸国の多くが #海水淡水化 を行っています。 #ドバイ #アブダビ があるUAEのような #湾岸諸国 では、淡水のほぼ100%が海水から得られています。海水淡水化の方法には、逆浸透(RO膜)、イオン交換法、多段フラッシュ蒸留(MSF)があります。多段フラッシュ方式は、発電所の排熱を利用して海水を蒸発させ、蒸留水を作る方法で、主に高熱源が必要です。逆浸透法はフィルターを使って海水から淡水を分離し、強い水圧が必要ですが、ポンプの稼働に大量の電気を使用します。そのため、太陽光発電とROの組み合わせが理にかなっており、近年、私の影響でこの分野への取り組みが増えています。

#COP28 では、昼間に発電した電気で #揚水発電 を行う提案がありましたが、私はこのアプローチには全面的に反対です。揚水発電は、位置エネルギーに変えてからタービンを回す方式で、非常に効率が悪いです。ソーラー発電の50%がポンプ用電力で失われ、落水時の発電効率が50%であれば、最終的には75%の電力が無駄になります。ダム工事の環境破壊も考慮に入れると、この方法の非効率性は顕著です。

 現在私が学術論文や国際会議の場で提唱しているのは、発電用ではなく生活用水と農業用水のポンプに必要な電力をソーラー発電で補う方式です。これにより、ほとんど無駄がなく、化石燃料から再生可能エネルギーへの移行が可能です。

ソーラーパネルの維持問題

 日本の #メガソーラー は海外と比較すると非常に小規模です。海外では一つの発電所で200MWから800MWの規模のプロジェクトが多く、地域によっては出力が1GW以上の場所も珍しくありません。このような大規模な設備では、ソーラーパネルの寿命が30年を迎えた際のリサイクルが非常に効率的です。そのため、MENA地域や中国、インドのプロジェクトは日本と比べ物にならないほど効率が良いです。 #ソーラー発電 所が一箇所に集中していれば、メンテナンスコスト、警備コスト、リサイクルコストも大幅に削減されます。

 ソーラー発電コストは設備投資の償却年数や資金調達の金利によって異なりますが、地価が高く広大な平地を確保が困難な日本や欧州諸国とは異なり、MENA諸国には広大な平地があります。こうした土地では、土地利用料が無料の50年から100年の借地契約が可能です。その結果、日本や欧州以外の国々では発電コストが1円/kWhを下回ることも珍しくありません。

 ソーラー発電適地では、直流電源と交流電源の違いはありますが、既に石炭やガスの発電コストを下回っています。オングリッドで高圧線を通じて送電する場合、直交変換ロス、昇圧ロス、送電ロス、変電所のロスなど様々なロスが発生します。しかし、 #スマートシティ #スマート工業団地 のようにオフグリッドで直流電気を利用する場合は、非常に効率が良いため、私はオフグリッドでのソーラー電気利用を推進しています。

3.問題解決に必要な時間軸

 再生可能エネルギー導入目標は、国によって大幅な差がありますが、私が手掛けているプロジェクトは、2030年、2040年、2050年と十年区切りで目標設定している国が多いです。

サウジアラビアは、国家開発計画Saudi Vison 2030において、再生可能エネルギーの発電量を2030年までに58.7GWに増加させる目標を掲げており、丸紅はこれまでにもラービグ太陽光発電事業(300MW)に参画しています。

2023/12/13 丸紅株式会社

#サウジアラビア では、今後数年にわたり年間10GWの規模とスピードで、ソーラー発電出力を開発する予定で、日本の企業もこのプロジェクトに参加しています。アルジェリアやイランでも年間1GWから段階的に発電能力を拡大していく計画で、既に国内のソーラーパネル工場が稼働しています。

 MENA諸国は日照条件が圧倒的に有利です。例えば、東京とMENA諸国の全天日射量を比較すると、MENA諸国は東京の約2倍の日射量を受けます。これは理論上、単位面積あたりで日本の2倍の発電が可能ということです。実際には、高温による発電効率の低下や、降雨量が少ないためにソーラーパネル表面の砂ぼこりが蓄積し易いことなどが影響しますが、これらの損失を差し引いても、東京の1.5倍以上の発電量が期待できます。

 つまり、MENA諸国の10GW出力のソーラー発電所は、夜間や朝晩の発電効率が低い時間を除いても、1〜2GWの #原子力発電 所と同等の年間発電量を達成する可能性があります。重要なのは、どのように発電するかではなく、発電した電気をどのように効率よく利用するかです。

イランと日本の人口比較

 近年の #イラン の人口は約8500万人で、日本の人口は約1億2500万人です。つまり、日本の人口はイランの約1.5倍、または、イランの人口は日本の約67%です。

イランと日本の年間電力消費比較

 イランの年間電力消費量は、人口増加と工業化の促進により増加傾向にあり、2020年時点で約3000億kWhです。一方、日本は人口減少と #エネルギー 効率の向上によりわずかに減少しており、2020年の消費量は約9000億kWhです。国別の電力消費量を比較すると、日本はイランの3倍の電気を消費しています。

 日本国内では、自動販売機やパチンコ店の過剰な照明や空調などで多くの電力を浪費しています。また、海外旅行者向けのホテルでの空調や照明でも大量の電気が使用されています。そのため、単純な人口比較では意味が薄れるかも知れませんが、以下に日本とイランの一人当たりの消費電力を示します。

イラン:3000億kWh ÷ 8500万人 ≒ 3529kWh/人
日本:9000億kWh ÷ 1億2500万人 ≒ 7200kWh/人

 この計算によって、日本人はイラン人の2倍以上の電力を消費していることが分かります。イランの工業化や電気自動車の普及が進めば、この比率は変化する可能性がありますが、節電を自慢する日本人が意外と多くの電力を浪費していることも明らかです。

 イランの年間消費電力を1人当たり日々に換算すると、3529 kWh ÷ 365日 ÷ 24時間 = 約0.4 kWとなります。一般的に国際的に普及しているソーラーパネルの出力は約250W(0.25kW)です。このため、イランの1人当たりの電力需給を24時間カバーするためには、およそ10枚のソーラーパネルが必要となります。

 日本では平地が少なく、台風が多いため、国民1人当たりソーラーパネル10枚を設置することは現実的ではありません。しかし、MENA諸国には広大な土漠が多く、こうした地域ではソーラー発電だけで十分な生活が可能です。

 さらには、イランの場合は日本の消費電力の三分の一にも及ぶ電気消費量をソーター発電に置き換えることで、自国での天然ガスの消費量が激減するので、莫大な天然ガスの埋蔵量が増えることになります。

 ソーラーパネルは半導体で出来ているので、このような政策を立案するためには、半導体製造の基礎知識が必要になるのです。

つづく…

#武智倫太郎

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