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MENA(中東・北アフリカ)専門家によるイラン解説 XIX

 イランの人口は1960年の約2000万人から半世紀を経て2010年代には4倍の約8000万人を超え、2024年の時点で9000万人に迫っています。

Iran Population (LIVE)

 イランはその歴史の中で、食料自給率において大きな変動を経験しています。本稿では1960年から現代に掛けてのイランのカロリーベースの食料自給率の変化要因について説明します。

1960年代~1970年代:この期間は、 #イラン #食料自給率 が比較的高かった時期です。農業が国内経済の重要な部分を占め、政府は農業の近代化と拡大に力を注いでいました。この時代、イランは主要な農産物でほぼ自給自足を達成していました。

1979年のイラン革命:革命による政治的な混乱と経済制裁が農業生産に悪影響を及ぼし、食料自給率が低下し始めました。革命後には農地の再分配が行われましたが、これが生産性の低下を引き起こしました。

1980~1988年のイラン・イラク戦争:農業にさらなる打撃を与えました。戦争による人的資源と物理的なインフラの損失が、食料生産に大きな影響を及ぼしました。

1990年代~2000年代:戦争終結後、イラン政府は農業部門の復興を試みましたが、水資源の不足、土地の劣化、技術の遅れなど多くの課題に直面しました。この時期には食料自給率は徐々に回復しましたが、完全な自給自足には至らず、一部の穀物や食品の輸入が必要でした。

2000年代後半~現代:イランは食料安全保障を向上させるため、農業技術の改善、灌漑システムの近代化、遺伝子組み換え作物の導入など、さまざまな施策を進めています。しかし、経済制裁や国内の経済問題が依然として挑戦となっており、完全な食料自給率の達成は困難な状況です。

 イランの食料自給率は、国内外の政治経済状況の影響を強く受けるため、その変動はこれらの要因に密接に関連しています。現代においても、イランは自給自足を目指す努力を続けていますが、多くの課題があります。

 近年のイランのカロリーベースの食料自給率は約80%に回復していますが、私はこれ以上の食料自給率の上昇は困難だと予測しています。その理由の一つとして、1966年まで38,000本が運用されていた #カナート が、2010年には半分以下の18,000本まで激減していることを挙げることができます。このカナートの減少は、人件費の上昇とメンテナンス費用の高騰が一因ですが、より深刻な問題は地下水の枯渇により、より深い地下水の利用が必要になったことに起因しています。

 非常に単純計算だと、人口が4倍に増加したことは、食料が4倍必要になるということを意味します。農業用水の需要も同様に増加しますが、降雨量の多い地域では農業用水をダムなどで調整することが可能です。しかし、地下水に依存している国々では、人口の増加が深刻な水不足を引き起こす可能性があります。

 さらに、イランは工業化を推進しており、工業化には大量の #工業用水 が必要です。これにより、 #農業用水 に利用可能な淡水資源がさらに枯渇しています。また、イラン政府が積極的に推進している鉱業でも、以下のような用途で大量の #鉱業用水 が必要になります。

鉱石処理:鉱石から貴重な金属を抽出するために必要な、浮選法や沈殿、ろ過などのプロセスに使用されます。

ダストコントロール:鉱山での粉塵抑制に用いられ、作業環境の改善と周辺環境への影響を減らすために重要です。

機器の冷却:鉱業機械や設備の冷却に利用されます。特に高温で動作する設備で重要な役割を果たします。

スラリー輸送:粉砕された鉱石を水と混合し、スラリーとして効率的に輸送するために使用されます。

廃棄物処理:鉱業プロセスで発生する廃棄物の安全な処理と、環境への影響を最小限に抑えるために用いられます。

 イランや周辺国の深刻な水不足が顕在化しており、水問題は地域の #安全保障 にとっても重要な課題となっています。今後、 #中東諸国の水問題 についてさらに詳細な記事を追加する予定です。

つづく…

#武智倫太郎

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