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海外に学ぶ交渉術(1)日本とイランの比較

サブタイトル:MENA(中東・北アフリカ)専門家によるイラン解説 XXIII

これまでのあらすじ
『MENA(中東・北アフリカ)専門家によるイラン解説』シリーズは、非常にためになるコンテンツです。しかし、『 #MENA 』や『 #イラン 』という言葉だけで、『あぁ、もうムリ!』となってしまう #国際情勢 アレルギーの読者が多いせいか、このnoteの閲覧者数が急減していました。そこで、今日からは『海外に学ぶ #交渉術 (1)日本とイランの比較』というキャッチーなタイトルで、リニューアルしてみることにしました。

海外に学ぶ交渉術(1)日本とイランの比較

 私は海外でビジネスを行う際、日本人の交渉力の弱さに驚くことが多いです。海外でビジネスを行っていない方々も、多くの日本人が #海外不動産投資 や国境を越えたM&Aで日本の企業が弱いことを知っているでしょう。さらに、日本政府が国連やCOP、 #AI倫理 の国際交渉で驚くほど稚拙な交渉をしているので、日本が窮地に立たされていることは頻繁に報道されています。

 このような状況が生じているのは、日本人および日本社会の #交渉力 の欠如に起因しています。このシリーズでは、日本人の交渉力問題を検証し、何を改善する必要があるかを論じてみます。

 海外で活躍している日本人ビジネスマンの間で、次のような交渉力の比較が話題に上ることがあります。日本人の交渉力を1とすると、中国人はその3倍、インド人は中国人の3倍で日本人の9倍、 #アラブ 人はインド人の3倍で日本人の約30倍、 #ユダヤ 人はアラブ人の3倍で日本人の90倍、 #アルメニア 人はユダヤ人の3倍で日本人の270倍に匹敵するとされます。

 この数字が大袈裟でないことは、多くの日本企業が未だに採用している稟議制度や、交渉のテーマを社内に持ち帰って検討する慣習が国外では極めて異質であることを理解すると納得するはずです。これらは日本の企業文化の非効率性と意思決定の遅さに起因する交渉力の欠如の構造的な問題を浮き彫りにします。

 日本人が交渉において弱いとされる理由を理解するためには、企業文化の構造的問題だけでなく、歴史、地理、地政学、文化など多岐にわたる要因を考慮する必要があります。以下に、それぞれの観点からの分析を行います。

日本の交渉文化や商習慣

歴史的背景
 日本は長い間、 #鎖国 政策によって国際社会との接触が限られていました。このため、外国との交渉の機会が少なく、交渉術を磨く機会も限られていたと言えます。また、戦後のGHQによる #占領政策 下では、多くの政策が外国からの指示によって決定されたため、自国での交渉力を発展させることが難しい状況にありました。

地理的・地政学的要因
 日本は島国であり、他の国々とは自然的に隔たれています。これが国際的な交流よりも内向きの文化を形成し、対外的な交渉において積極性を欠く要因となっている可能性があります。また、地政学的にアメリカや中国などの大国に挟まれる形で存在しており、これらの国々との力の差が交渉の場での自信の欠如につながっているかもしれません。

文化的要因
 日本の文化は、調和と円滑な人間関係を重視します。このため、『空気を読む』ことや『無言の了解』が重要なコミュニケーション手段とされ、直接的な対立を避ける傾向があります。これが国際的なビジネス交渉において、直接的で攻撃的な交渉スタイルを持つ文化と対峙した場合、相対的に不利に感じられることがあります。

教育システム
 日本の教育システムでは、集団主義が強調され、個々の意見を主張するよりもグループとしての一体感を大切にする教育が行われてきました。このような背景は、自己主張よりも調和を優先する文化を育て、国際的な交渉場面で意見を積極的に推し進めることを難しくしています。

 これらの要因は、日本人が交渉において弱いと見られる一因を提供していますが、これは一概にすべての個人や状況に当てはまるわけではありません。また、近年ではグローバル化の進展と共に、国際的なビジネス交渉能力を高めるための教育やトレーニングが強化されています。

イランの交渉文化や商習慣

歴史的背景
 
イランは古代から #ペルシャ として知られ、豊かな文化と複雑な社会構造を有しています。歴史を通じて、イランは多くの大国との交渉を重ね、帝国を築き上げた経験があります。 #シルクロード 貿易においては、イランは東西の交易の要衝として、さまざまな文化や経済圏との間で巧みに交渉を行ってきました。先述の世界で最も交渉力のあることで知られる #アルメニア は、現在イランの北部に位置する独立国です。元々はペルシャ帝国の一部であり、非常に巧みな交渉文化を持っていることで知られています。

文化的要因
 イラン文化には詩や文学が深く根付いており、これらは言葉を巧みに操る技術を育んでいます。また、イランの #バザール 文化では価格交渉が一般的であり、日常生活の中で自然と交渉技術が養われます。さらに、イラン人は家族や友人との強い絆を大切にする社会であり、このような人間関係の中で相互理解や説得の技術が磨かれています。

教育システム
 イランの教育システムでは、古典文学や歴史、法律など #論理的思考 #批判的思考 を重んじる科目が重視されます。これにより、学生は若い頃から情報を分析し、効果的に他者とコミュニケーションをとる方法を学びます。公共の場での討論が推奨される文化も、交渉能力の向上に寄与しています。

地政学的要因
 地政学的に見ても、イランは東と西、南と北を結ぶ交通の要衝に位置しています。この地理的な位置から、イランは多様な国々との間で外交的な交渉を行う必要があり、国際的な交渉術を磨く機会が多くなっています。また、国際的な制裁や圧力に直面する中で、イランは生存戦略として交渉術を発展させてきました。

 これらの要因は、イラン人が交渉術に長けている理由を説明するのに役立ちます。交渉は単に技術や戦略だけでなく、文化や歴史、教育が複合的に影響するものであり、イランはこれらすべての要素が交渉能力を高める方向で機能している例です。

日本人がイランに学ぶべき交渉術の精神と技術

積極的な交渉姿勢
 
イランの交渉文化では、積極的かつ直接的なアプローチが重視されます。イランのビジネスマンは、自己の立場をはっきりと主張し、必要に応じて迅速に決断を下すことが求められます。日本人はこのような積極性を取り入れることで、交渉の場においてより主導権を握ることが可能になるでしょう。

話術と説得力の向上
 イランでは、詩や物語が日常的に語られる文化の中で、言葉を巧みに操る技術が育まれています。交渉においても、このような話術を用いて相手を説得する技術は非常に重要です。日本人ビジネスマンも、プレゼンテーションや会話の中でストーリーテリングを積極的に取り入れることが、交渉の成功につながります。

柔軟な思考と戦略の適応
 イランの交渉者は、状況に応じて戦略を柔軟に変更する能力があります。これは、不確実な環境下でも最適な結果を導き出すために役立ちます。日本のビジネス環境では融通の利かない一貫性が求められる傾向が強いですが、国際的な舞台ではこのような柔軟性も同様に重要です。

対等な関係の構築
 イランのビジネスカルチャーでは、相手を尊重しつつも対等な立場で交渉を進めることが一般的です。

 これらの点を日本の交渉スタイルに取り入れることで、国際舞台での競争力を高め、より良い交渉結果を導くことが期待されます。イランの交渉術から学ぶことは多く、日本人ビジネスマンにとって新たな視点と成長の機会を提供することでしょう。

今日から使える交渉術

 交渉には簡単に習得できるテクニックがあります。このコーナーでは、そのような小技を少しずつ伝授します。

レッスン1:パイの分配問題
 
この問題は、パイの分配から国土の分割に至るまで応用可能な基礎技術です。

 パイを交渉相手に切り分けさせ、どちらが良いかを自分が選ぶテクニックについて解説します。この方法は『 #カット・アンド・チューズ 』として知られており、公平性を保つための非常に効果的な戦略です。一方の参加者がパイ(または任意のリソース)を二つに分割し、もう一方が先に部分を選ぶ役割を担います。これにより、最初にカットする人はできるだけ公平な方法で分割するよう努めることになります。なぜなら、不公平な分割をすれば、もう一方の参加者により良い部分を選ばれるリスクがあるからです。

 このテクニックは、ビジネス交渉、家族間の財産分配、さらには友人同士の食事の支払い分担など、多くのシナリオで利用できます。公平な解決策を求める際にこの方法を用いることで、双方が納得する結果に導くことが可能です。

 次回のレッスンでは、さらに高度な #交渉テクニック について詳しく解説しますので、お楽しみに!

#武智倫太郎

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