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鉱物資源の秘密:地質学と宝石学の世界(18)ダイヤモンド IV

 前回の記事では、塗装、メッキ、蒸着技術の歴史と薄膜の重要性に加えて、ダイヤモンド薄膜について概説しました。今回は、ダイヤモンド薄膜技術の中でも特に大きな期待が寄せられているダイヤモンド半導体に焦点を当てます。

#ダイヤモンド半導体 が注目される理由は、その卓越した物理的特性が次世代の電子デバイスに革命をもたらす可能性を秘めているからです。この記事では、 #ダイヤモンド薄膜 技術をさらに詳しく掘り下げ、特に期待が高まっている #ダイヤモンド 半導体について詳細に解説します。

ダイヤモンド半導体とカーボンナノチューブ(CNT)半導体の比較

 かつて #カーボンナノチューブ 半導体も究極の半導体材料として期待されましたが、その実用化には限界がありました。ダイヤモンド半導体は、カーボンナノチューブ半導体と比較して広いバンドギャップ、高い熱伝導率、そして優れた化学的安定性を持ち、高温・高電圧環境での使用に適しています。この記事では、両者の材料特性、製造技術、コスト、および市場ニーズについて詳細に比較します。

ダイヤモンド半導体の特徴と進展

 ダイヤモンド半導体は、その非常に広いバンドギャップ、高い熱伝導率、化学的・物理的安定性により、エネルギー効率の高いデバイスの実現が期待されています。高温高圧合成法や化学気相蒸着法などの技術進歩により、品質が高く大口径の #ダイヤモンドウェハ の製造が可能になっています。本章では、ダイヤモンド半導体の製造技術や新技術の進展、産業への応用について紹介します。

実用化に向けた課題と展望

 ダイヤモンド半導体の実用化には、まだ克服すべき課題があります。大口径ダイヤモンド基板の製造コスト削減や、高品質なダイヤモンド素子の量産技術の確立がチャレンジングな点です。しかし、これらの課題が克服されれば、ダイヤモンド半導体は #パワー半導体 市場において大きな影響を与えることが期待されます。この章では、ダイヤモンド半導体の実用化に向けた課題と展望について簡単に説明します。

#シリコンウェハ がなければCPUやメモリなどの #シリコン半導体 を製造できないのと同様に、ダイヤモンドウェハがなければダイヤモンド半導体は理論上のものに過ぎません。

 このことは #ジョジョの奇妙な冒険 のシールを入手するためには、ジョジョウェハースが必要なのと同じことです。

 この分野で重要なブレイクスルーを実現したのは、ダイヤモンドレコード針の製造技術で知られる #アダマンド並木精密宝石 (現社名: #Orbray 株式会社)です。

 同社はサファイヤ基板上にダイヤモンド膜を成長させる技術を開発しました。このような技術は #半導体製造 の専門家には常識ですが、一般には驚くべき精密技術であり、ダイヤモンドウェハの量産に向けた大きな進展となりました。

 但し、 #サファイヤ基板 上に #ダイヤモンド膜 を作る際には、熱膨張率の違いから生じる問題があります。ダイヤモンド膜はサファイヤよりも熱膨張率が低いため、熱によって膜が割れてしまう可能性があります。アダマンド並木精密宝石は、この問題を解決するために、サファイヤ基板上にダイヤモンドの針山を形成し、その上にダイヤモンド膜を成長させる方式を開発しました。この方法により、1インチサイズのダイヤモンドウェハの製造に成功し、さらに2インチウェハではステップフロー成長方式を採用し、ダイヤモンド膜の成長に画期的な成功を収めています。

 このように、ダイヤモンド半導体技術はまだ発展途上ではありますが、そのポテンシャルは計り知れず、今後の電子デバイス業界における重要な革新となることが期待されています。

日本のパワーデバイス分野における位置づけ

 日本は1980年代からパワーデバイス技術の開発において世界をリードしてきました。しかし、2000年代に入るとアジア諸国の競争に直面しています。次世代半導体材料、具体的にはダイヤモンド半導体、 #シリコンカーバイド (SiC)、 #窒化ガリウム (GaN)に関する研究では、日本の企業や研究機関が重要な役割を果たし続けています。本章では、パワーデバイス分野における日本の現在位置と、その強みと直面している課題について概説します。

世界市場における日本の機会と課題

 グローバル市場では、技術革新とコスト競争力が成功の鍵となります。日本のパワーデバイス産業は、新しい材料と技術、特にダイヤモンド半導体において独自の強みを発揮していますが、国際競争は日に日に激しさを増しています。

 この分野での継続的な成功には革新的な研究、国際的な協力、競争力のある製造技術の獲得が不可欠です。また、将来の技術革新を支えるためには、教育と人材開発への注力も必要です。最終的に、日本がこの分野で世界をリードするかどうかは、技術開発の成果と市場での競争力に依存します。日本が技術力と製造能力を維持し、さらに発展させることができれば、新しい半導体技術の分野で世界をリードする可能性があります。

 かつて、日本は世界のソーラーパネル市場の90%のシェアを占めていましたが、ドイツのFIT制度の導入や中国の台頭により、市場シェアを急速に失い、現在の世界シェアは1%にまで落ちています。現在の世界のソーラーパネル市場の大部分は中国製です。

世界の2019年における太陽光パネル生産の約7割は中国製(左)。日本の20年における太陽光パネル輸入額2640億円のうち、約8割が中国からの輸入

 ダイヤモンド半導体分野も、シリコン半導体ソーラーパネルと同様に、激しい国際競争に直面しています。日本の産業が国際競争力を維持するためには、エネルギーの確保が絶対条件です。しかし、日本で安価にエネルギーを入手することは困難です。

 エネルギーを多量に消費する半導体産業で日本が優位性を発揮するためには、産業・エネルギー外交を通じて資源輸出国での現地生産が極めて重要です。

 多くの日本人は日本の #産業空洞化問題 を誤解しています。半導体産業は装置産業であり、直接的な雇用創出の規模はそれほど大きくないという事実を理解する必要があります。

 資源国での現地生産は、日本の産業空洞化を悪化させるわけではなく、むしろ適切な戦略のもとで行われるべきです。エネルギーを大量に必要とする装置産業は、資源国に子会社や現地企業との合弁企業を設立し、その海外企業で製造した環境負荷の少ない半導体ウェハなどの最終原料を日本国内に輸入することが賢明です。

 これにより、日本の製造業は、これらの輸入された半導体ウェハを使用して、付加価値の高い製品を国内で生産することができます。このアプローチにより、日本の産業空洞化問題を緩和しつつ、グローバルな競争力を維持することが可能になります。

#武智倫太郎

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