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MENA(中東・北アフリカ)専門家によるイラン解説 XXI

 年金制度が充実していない開発途上国では、『20~30年後の老後が年金で安泰』という概念が存在しないことが多いです。一方で、日本を含む多くの先進国では、年金を将来の生活設計の一部と見なしている人が一定数います。しかし、G7諸国を含む多くの先進国では、 #人口高齢化 や財政難を背景に #年金支給開始年齢 の引き上げや支給金額の削減が進められています。このため、若い世代の中には、将来年金を受け取れるかどうか不確かであるため、 #年金 #年金制度 に対する不信感を抱き、支払いを渋る傾向があります。この現象は、日本を含む多くの国で見られ、若年層の #年金未払い問題 が注目されています。

 歴史的観点から #貨幣の寿命 を検証すると、米ドルやユーロ、日本円のような国際的に認識されている #ハードカレンシー でさえ、100年以上続いている一貫性のある貨幣は非常に少ない事実を認識すると、若年者は自国通貨での年金制度に期待すべきではないというのが、私の基本的な考え方です。

 そこで、本稿では貨幣の寿命と #価値とは何か について説明し、 #イラン と資源が豊富な #アフリカ 諸国のポテンシャルについて解説します。

 日本の貨幣制度が『両』から『円』へと変わったのは、明治時代の初期、1871年に新貨条例が制定されたためです。そのため、日本円の歴史は150年以上に及びますが、大東亜戦争の敗戦後、円の価値が1米ドル360円に固定された際に、円の一貫性は失われました。敗戦前後の円の性質や価値は全く異なるものとなっています。

 国家が貴金属や資源ではなく、その国の国力や武力によって #貨幣価値 を担保する場合、敗戦国の貨幣価値は一瞬で消滅し、貨幣の一貫性も失われます。

100年以上一貫性を保っている貨幣の概略は以下の通りです。

英国ポンド (GBP):非常に古い歴史を持ち、金銀兌換制を経て現代に至るまで使用されています。第二次世界大戦中の金兌換停止などの変動はありましたが、通貨としての連続性は保たれています。

スイスフラン (CHF):1850年に導入されて以来、スイスフランはスイスの強固な金融政策と経済の安定に支えられています。スイス国立銀行の管理下で運用され、金兌換性の廃止などの大きな変更を経ずに安定しています。

デンマーククローネ (DKK):1873年の導入以来、デンマークは自国の通貨としてクローネを使用し続けており、大きな経済危機を乗り越えつつも通貨としての一貫性を保っています。

スウェーデンクローナ (SEK):1873年に導入され、以来スウェーデンの通貨として使用され続けています。金本位制からの移行やその他の変更はありましたが、通貨としての基本的な運用は維持されています。

ノルウェークローネ (NOK):1875年に導入されたノルウェークローネは、北欧諸国の中でも比較的安定した経済政策のもとで運用されています。

 ハードカレンシーの中で最も長い歴史を持つ英国ポンドは、過去100年間で他の主要通貨に対して価値が下落する傾向にありました。これは英国の世界的影響力の低下と関連しています。英国ポンドの将来的な価値の下落やその寿命がどれほど残っているかは予測が難しいです。しかし、現実的なイギリスの発展シナリオが描けない以上、英国と英国ポンドの凋落に歯止めをかけることは困難でしょう。

 これからの英米の経済発展が不透明であることは、大航海時代の終焉に似ています。16世紀の大航海時代にはポルトガルやスペインが世界の覇権を争っていましたが、現代では両国はG20国として目立たなくなっています。世界には約200カ国が存在し、そのうち国家の10%に相当するG20国が世界の富の90%を占めていることを考えると、ポルトガルやスペインが再び世界経済の主要国となる可能性は、まずあり得ません。

 このようにポルトガルやスペインの例からも分かる通り、 #イギリス やアメリカが今後世界を制覇することは難しいでしょう。『 #平家物語 』の冒頭句『 #祇園精舍の鐘の声 #諸行無常 の響きあり。 #娑羅双樹 の花の色、 #盛者必衰 の理をあらはす。驕れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者もつひにはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。』が示すように、すべてのものは変化し、衰退するのが #自然の摂理 です。この摂理は企業や国家の繁栄にも当てはまります。現代では、欧米中心の価値観で世界経済を考えることは時代遅れであり、この現実を多くの人が理解すべきです。

 本稿を書いている2024年の100年前、つまり1924年時点では、多くの現代国家はまだ形成されておらず、第一次世界大戦後の国境の変更や植民地独立運動が影響を及ぼしていました。以下の国々は、1924年当時はまだ独立した国家として存在していませんでした。多くの国々がイギリスやその他の欧州列強から独立した後、 #エマージングカントリー として経済成長を遂げており、世界のパワーバランスは既に逆転しています。

#サウジアラビア :1932年に建国されました。
#イスラエル :1948年に建国されました。
#インド :1947年にイギリスから独立しました。
#パキスタン :1947年にイギリスから独立しました(当時は西パキスタンと東パキスタンに分かれていました)。
#インドネシア :1945年にオランダから独立宣言を行い、正式な独立は1949年に達成されました。
#ベトナム :1945年にフランスからの独立を宣言しました(その後のフランスとの対立が続きました)。
#ナイジェリア :1960年にイギリスから独立しました。
#マレーシア :1957年にマラヤ連邦としてイギリスから独立し、1963年に現在の形のマレーシアが成立しました。
#ガーナ :1957年にイギリスから独立しました。
#アラブ首長国連邦 :1971年にイギリスから独立しました。

 これらは1924年の時点で国家としての存在が認められていなかった例ですが、その後の数十年間で多くの国が新たに独立しています。このような歴史的事実から、100年以上継続できる貨幣は極めて稀であり、 #基軸通貨 としての米ドルがいつ機能しなくなっても不思議ではないことが解ります。

 本稿では『G20国が世界の富の90%を占めている』と説明しましたが、これはあくまで、米ドルに基づく #フォーマルエコノミー の評価です。実際には、国富として評価されていない #バーター取引 や、 #化石燃焼 #鉱物資源 #水資源 などの価値を異なる尺度で判断すると、この『世界の富の90%』という数字は意味をなさなくなります。

 例えば、 #BRICS の台頭と米ドルが基軸通貨としての機能を失うことにより、資源国が圧倒的に有利な状況になる可能性があります。情報通信の発展以前は、 #資源争奪 を目的とした戦争行為が正当化されることもありましたが、現代ではこのような侵略行為を国際世論が見逃すことはありません。

 現在、世界中で起こっているイスラエルに対する抗議運動も、イスラエルの国際法違反や戦争犯罪行為が国際世論によって見逃されなくなった現れです。

 このような偏向報道の修正は、不当な理由で国際的な経済制裁を受けていたイランにとって、経済を立て直す絶好の機会であり、 #BRICS #脱米ドル 政策の実施において重要な役割を担っています。これが、イランが今後数年で強大な経済大国として台頭する可能性を秘めていると言えるでしょう。

 関連ニュースとして、以下の大学での抗議活動が日本語でも報じられています。英語やアラビア語のニュースソースを調べると、更にイスラエルにとって不都合な事実が露呈していることが分かります。

つづく

#武智倫太郎


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