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除雪を待ちながら

 一台、また一台と出ていくのを窓越しに見やる。車が去った後にはわずかにコンクリートが覗いているところもある。だが大半は真っ白だ。駐車場は雪に覆われている。固く、固くなった雪の面が、陰、日なたに分かれている。

 車と車の間は、住人が雪かきをし残して山になっている。その山と山とが、雪の下に見えなくなった境界線のかわりとなって、月二千円分の領土を冬の間も主張しあっているのだ。それでも夏よりは曖昧で、停める場所を定めかねた運転手たちの逡巡が、タイヤ痕からうかがえる。

 ピー、ピー、という音を立てて遠くからやってきたのは大きな黄色いダンプカーだ。それとトラック。まずは隣のマンションの除雪から手をつけているらしい。車両を運転する人のほかに、人手を使う部隊もいる。男たちは申し合わせたように同じくらいの身長で、私服ではあるのに皆黒い上着の防寒着を纏い、毛糸の帽子を被っている。


 除雪車が一度遠ざかる。


 天気がよくなった。雲の背景が驚くほどの速さで斜めにスクロールしていく。光が白く、まぶしい。

 妻が赤のデイズ・ルークスに乗り込んだ。まだ避難していない車は数台残るのみだ。赤、青、黄色。このマンションはレガサスだのなんだのといった高価な車に乗る人が多い。雪が積もるのに備えて、触覚のようにワイパーを立てている。

 隣のマンションの除雪はもうすぐ終わるようで、除雪職人たちの動きが慌ただしくなった。

 冬の動物園に行くのを返上し、娘と除雪車を見ることにした朝。



#描写遊び

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