刑務所で芝居
『アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台』という映画を観た。
役者が刑務所の受刑者たちに、やむなく芝居をさせることになり、ベケットの不条理劇の最高傑作『ゴドーを待ちながら』をやらせるという話である。
観ながら真っ先に思い出したのは劇団双数姉妹の『やや無情』であった。こちらもほぼ同様な話であり、非常に面白く、再演もなされている。
『アプローズ、アプローズ!』はとんでもないエンディングが待っているのだが、なんと実話である。実際の出来事は1985年に起こったということであるから、『やや無情』上演以前の出来事である。『やや無情』の脚本家が果たしてこの話を知っていたのか、気になるところである。
他に、『塀の中のジュリアス・シーザー』という映画もある。こちらは本物の受刑者が出演しているのが見ものだ。
かく言う私はというと、刑務所内の覚せい剤の離脱プログラムを、自分の好きな即興劇の要素を取り入れてやっていた時期がある。『ヤク中ゲーム』『売人ゲーム』と名付け、ちょっとした小芝居をやってもらって、薬を売る・断るのエチュード(即興劇)をしてもらっていた。
刑務所では、近隣の関係者に内部の教育プログラムを公開する機会というのがあり、私のプログラムが披露されることになった。私は当時外部講師で「さすがにあのゲームをやるのはまずいのでは?」と言ったのだが、刑務官の先生たちが「いや、ぜひあれをお願います」と言う。
「いや、さすがにあの名前のままでは不謹慎でしょう」
「いやいや、いいんじゃないですか?」
とノリノリであった。
法務省、懐が深いなあ、とやることにしたが・・・
やると、案外好評価ではあった。特に被害者団体の代表の方からお褒めの言葉をいただいたのにはほっとした。
強面の男性もいて、見るからに刑事だなと思ったらやっぱり刑事であった。
「まあ、捕まえる我々と、刑務所の役割は違いますから」
ボソリと言われると、ちょっと「ヤバ」と思った。日頃命がけで薬物犯逮捕に奔走している方々には、我々の仕事がふざけているように思われては悪いな、とは思った。こちらとしては決して遊びではなく、かなり計算した上で、本気で再犯予防を目指しているのではあるが。
だが、もっとも厳しい意見を述べたのは、なんと近隣の小学校の校長先生であった。
「刑務所が犯罪者をこんなに甘やかしていいんですか!」
あわわわわ。
その小学校では珍しく薬物教育などもしており、その点では大変にありがたく思った。ただ、薬物犯罪については、厳罰主義で臨んでもろくなことにならないのが明らかになっている。受刑者の琴線に触れる処遇とはいかなるものか、ぜひ理解してもらいたいと思っていた。まずはプログラムについて知っていただくというだけでも、よい機会ではあったのだろう。
刑務所は芝居と相性がよい、かもしれない。
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