【縣青那の本棚】 秋津温泉 藤原審爾
これも、『異邦人』同様、若い頃、確かまだ20代だったと思しき時代に文庫本を買い求め一読した作品。その後、30代になってから一度、ある鄙びた温泉地に滞在していた折に再読したことがあった。なので、今回は3度目ということになる。
何度読んでも飽きない作品である。作中、幾度となく繰り返される〝秋津の不思議と澄んだ透明な空気〟という言葉が誘う落ち着いた美しい世界は私の心の底に静かに横たわっていて、いつでもじっと覗き込めば、水底に沈んだ遺跡のように、いつも同じ雰囲気を湛えた静謐なイメー