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薫風書簡  春弦サビ小説

生まれて初めて作曲なるものをさせていただいた記念すべき本曲・藤家秋さんの歌詞にサビ小説を捧げたいと思います  


春風書簡

作詞:藤家 秋さん 編曲:見据茶(みすてぃ)さん 作曲:ほこb

あたりまえだからと がんばっているけど
いっぱいいっぱいの自覚もなくて

押しつぶされそうで 少し息を吸って
そして ゆっくり 吐いてみて

澄んだ空でも 夜空でも
ぼうっと見つめてみて

目を閉じて自分をギュッとして 頭をよしよしして

ありがとう
生きててくれて
花びらになって そよそよ届く
わたしからの 春のおたより


薫風書簡    【685字】

会社から駅まで5分の道のり。
足が重い。
でもそれほどとは思っていなかった。
 
「おまえ、足はついてるか?」
同僚の山岸が言った。
「付いてるよ。もしかして見えないか?」
「バカやろう。死んでるって言ってんじゃねぇよ。おまえ、子ども用プールで溺れてそうだからさ」
「アップアップしてるって?」
 
昼休みの屋上、女子社員たちのさえずる声が風に乗ってくる。
ゆっくり息を吐く。
「わ!いつからいました?」
気づくと隣に女子社員が立っていた。
「今。今来たところです。お邪魔でした?」
「まさか、そんなことは」
「良かったら、ご飯ご一緒にいかがかと思って」
「夜ご飯?」
「はい。晩ご飯。おイヤですか?」
「そんなことはありません。山岸のやつに何か言われました?」
「もういいです。失礼しました」
怒らせちまったか。
あーあ、午後から外回りだ。
 
自宅への帰り道はいつも黒い道路ばかりを見ている気がして、夜空を見上げた。
星々の思いの外の美しさにしばし足を止めた。
このまんまじゃそのうち倒れるな。
週末は仕事のことを一切忘れて過ごした。溜まっていることもすべて後回しにした。
 
5日思いっきり働き、2日の完全休養。
1ヶ月ほどしたある日の昼休みの屋上は、はつ夏らしい風が薫っていた。
こんなに青空が広いってことを忘れていた。
 
先日の女子社員に声をかけた。
「ご一緒にお食事はいかがですか?」
「うん?」彼女は顔をくしゃくしゃにして笑った。「よろこんで」
「ありがとう。詳細は追って」
「私、死んじゃうんじゃないかって心配だったんです」
「そんなでしたか。あなたが声をかけてくれた。その勇気にも気づく余裕がなかった。ありがとう」
          了

春弦サビ小説へのエントリーです
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