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変身  シロクマ文芸部

本編 【916字】

「変わる時は一瞬さ。ウルトラマンしかり、仮面ライダーしかり」
 「おめー、何の話してんだ?」
 「変身だろ?」
 「ああ、カフカのな」
 「そんなヒーローいたっけ?」
 
西洋近代文学Ⅰの講義を終えて、次の講義までお昼を挟んで3時間。広い階段教室に妙な奴と2人きりでは身がもたない。
 
「お前の頭ん中はお子ちゃまか!」
 「ああ俺、保育士目指してっから」
 「じゃ来るとこ違うだろ」
 「木曜日の5限、児童福祉論とってっから」
 「マジか!おまえが子ども好きとは知らなんだ」
 「俺、保育園開きたいって思ってんだ。子どもが夢を見続けられる理想の保育園」
 
目が気持ち悪いほどキラキラしてる。かなりイッてるっぽい。
 
「保育園は厚労省の管轄だな。ハードル高いんじゃないか?」
 「幼稚園でもいいよ。要は子どもたちになるべく夢見ることを怖れず成長してほしいんだ。宇宙飛行士になりたいって思ったら、その夢を簡単に捨ててほしくない」
 「幼稚園は文科省の管轄だ。この二つ、似て非なるもので、設置基準も違う。でもどっちにしたって悪夢だと思うぜ」
 「どっちだっていいだろ?その悪夢はおまえみたいなやつに任せるさ。俺の頭ん中は子どもたちが、跳んで跳ねて走り回ってる楽園を描いてんだ。戸棚開けたら恐竜の子どもが出てくるような」
 「おまえ、気は確かか!」
 「大マジさ。その辺にからかい上手の高木さんみたいな子もいたりしてな。空想して遊べる子を育てていきたいんだ。そのための空間を描いてる」
 「まぁ好きにすりゃいいさ」
 
思わず目を背けた。できれば覆いたいくらいだ。
 
「おまえも手伝え」
 「いいよ、俺にはそんな空想癖ねぇから。おまえのイマジナリーフレンドとやれよ」
 「それがその友だちはそういう手続き業務は苦手なんだと!」
 「そりゃそうだろうな。現実は夢じゃねえから」
 「ははは、俺だって夢と現実は区別してるさ。夢想家を育てようってんじゃない。夢を描ける子どもを育てるんだ」
 「もういいや、メシ行こうぜ」
 
立ち上がって階段を下りていると、後ろで「ヘンシン!」という声がした。どうかしてる。
 
教室のドアを押しながら振り返ると、仮面ライダーが追いかけてくる。
 
ああ、俺もかなりどうかしてる。
        了


小牧部長さま
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