ラムネ 三羽さんの”色”企画
ラムネ 【517字】
はつなつの風がラムネの瓶を揺らして、カランキランと零れ落ちたビー玉は、君の浴衣の柄に留まった。
炭酸は初夏の光に沸騰を免れず、空高く上げられた。
その雨を受けて、傘もなく歩く君の姿は清々しくさえある。髪が頬に張り付いたって、浴衣を透けて下着の線が見えたって、君が素敵だって事実を何ひとつ損なうものじゃない。
僕が傘を差しだしても、君は何を今さらという顔で笑った。
だからさ、僕が傘を畳んだのは。
降り止まぬ雨の隙間から青い空が覗いたのは、もう僕のアパートの手前だった。
君が玄関で脱いだ浴衣を、とりあえず洗濯機に放り込んで回した。
僕はパンツ一枚でベランダに出て、まだ薄青灰色空を眺めながら煙草を吸って、爽やかな空にフーっと吐いた煙、これは汚染にあたるのかな・・・そう問いかけると、煙草は真っ赤な顔をした。―何をおっしゃる赤い目玉の兎さん、煙草は自然のアロマですぞ―
君が僕の大きなスウェットを着ている姿も魅力的だ。
でも僕がお風呂から出ると、君はもう寝息を立てていた。その顔を間近に覗き込んで、しあわせを感じる僕ってどうなんだ?
ビー玉の模様は色留めしていなかったからだろう、すっかり北半球の渦の中に溶けてしまっていた。
いいさ、まだラムネはあるさ。
了
三羽さん
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