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治療薬  シロクマ文芸部


治療薬   【386字】   

風薫る五月の息づかいに、ぼろぼろと妄想の欠片が眼球をかすめていく。

空から舞い降る蝶。
荒れ野に佇む少女。少女は生成りのスカートを泥で汚していた。
飛行機雲は途切れている。そこに、その先端に機影はなかった。
あの蝶は誰かの魂ではなかったか。

会社へ向かう足を、知った顔が追い抜いていく。
気にしないことにしたじゃないか。
それは能力の故なのか、それとも要領の悪さなのか、それは私にもわからない。
ただ、目の前を通り過ぎていく同僚、後輩たちの背中を見つめている。
自分を小さく感じない術があるならば、私はどんなことにも手を伸ばすだろう。

新緑の山を見ていた。
新しい芽吹きはやわらかな緑を置いていく。深い緑を埋めていく。
それは囲碁か、はたまた陣取り遊びのように山を染め分けていく。
私は小説を書き始めた。
妄想を描き留める、その手立てとして。

追い越されたって気にしない。
そんな薬は意外と手近にあった。
      了


小牧部長さま
よろしくお願いいたします。


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