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助手席の女 毎週ショートショートnote

夜眠れないときはドライブをする。
私のことじゃない。隣の妻でもない。バックシートでぱっちり目を開いているもうすぐ一歳になる息子だ。
かれこれ30分は走っているが、まだおねむではないらしい。

いつも渋滞する今出川通も、今は川の流れのようだ。
どの店も暖簾を外したこの街には、個性なんて何もない。
私はただ黒い家並みを見つめながら車を走らせる。
「ちょっと。前を見て運転して」と妻からクレーム。
「ああ」と最短で対応する。

少し白んだアスファルト。どこまでも続くような黄色いセンターラインをグネグネと目で追う。
そろそろ眠くなってきた。

左角に鶴屋吉信を見て右折する。
広い堀川通でアクセルを踏み込んで目を覚ます。両側の背の高いビル群がするすると過去に流れていく。

青白い二条城の隅櫓を右折。
二条城の森は真っ暗だ。
「ねぇ、ちゃんと前を向いてって」
助手席の異世界転生をした、スパンコールのような鱗を光らせた腕が太腿に載り、私は慌ててブレーキを踏んだ。
          410字

たらはかにさま
今週のお題、よろしくお願いいたします。

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