twins

「あなたが殺したのは双子の妹よ。」私はそう言って嘘をついた。私に妹なんかいないのに。ましてや双子の妹なんて。それでも私はそう言わざるをえなかった。だって、私は死んでいなかったし、彼のことがかわいそうに思えたから。

私は、彼に殺された。いや、殺されかけた。彼はその時追い詰められていて、すべてに嫌気がさし、人生に疲れていた。私は一生懸命に彼のことを励ました。なんとかして立ち直って欲しいとできる限りのことをした。それでも、彼の墜落は止まらなかった。彼はどんどん暴力的になり、私を殴ったり蹴ったりした。私はじっとその暴力に耐えたけど、次第エスカレートする暴力に感情的になることもあった。でも、私は彼に元どおりになってもらいたかっただけだった。彼は今ちょっとおかしな状態になっているだけ、本来の彼ではないから。本来の彼は人を殴ったり蹴ったりできないから。

それでも私はひどく感情的になってしまう時があって、そのことに逆上した彼は私のことをナイフで刺した。私のお腹から飛び出るように血が吹き出て、私は気を失って倒れてしまった。彼がこんなことするはずはないのに。私が余計なことを言ったばかりに彼は私に逆上してしまった。私のせいだ。私がいけないんだ。

気を取り戻した彼は、私のために救急車を呼んでくれた。私は薄れる意識の中で、彼が私の手を握ってくれていることに気づいた。私はなんだか悲しくなった。だって、彼の手から悲しみが伝わってきたから。そして私が死に近づいていることに気づいたから。

たぶん私は死んだんだと思う。病院の中で私の意識は途切れ、私は身体中の感覚がすっぽり抜けきってしまったように感じたから。私は無のような感覚を持ち、いつしか私という存在が薄く透明で溶けかかっているように感じたから。だから、私は彼とお別れを言わないといけないかった。心の中でバイバイを言って、浮遊している意識をコントロールして彼の頬にキスをした。彼は何の感覚もなかったと思う。仕方がない。だって、私は死んだんだから。

でも、しばらくして目を覚ますと私は実体の私として存在していた。生きているのか死んでいるのか判断はつかないけど、とりあえず実体として私の体は存在していたし、だから私は生き返ったんだと思った。そして、私は彼のことを考えた。彼は私が死んだ方が都合がいいだろう。私だって、一旦死んだんだと思うと心がしっくりと落ち着いた。だったら、私は別の存在だ。私は別の人間として、彼の前に現れたらいい。そして、彼を今まで通り愛するのだ。だから、私は嘘をついた。私は双子の妹で、私は別人で、私は生きている。だから、彼は何も引け目に感じることはない。私をまた愛してくれればいい。だから、私は嘘をついた。

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