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小説的なものを

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Deadend

その日は10月にしては珍しく暑い一日だった。父は雨男だったので台風でも来るかと思ったが真逆の晴れた一日だった。 父が静かに息を引き取ったその時、僕は空の上にいた。正確には空を飛んでいたと表現すべきかもしれない。19時30分博多空港発羽田空港行の飛行機の中にいたのだ。その日はもともと博多への出張の予定があった。朝、病院から父の容態が悪化している、今夜が山場になるだろうと連絡を受けていたが夜までには戻れる予定だったので予定を変更せずに出張へ出かけた。予定どおりに戻ってくれば22

    • Final View

      僕は三つのパン屋を使い分けている。ひとつは駅ビルの中に入っているパン屋で、白金だか青山に本店がある店。有名なパン屋みたいだが僕はこのパン屋を知らなかった。ここは食パンが美味しい。どこかブランド小麦粉を使っていると書いてあったが詳細は忘れた。トーストにすると小麦粉の味がほどよくして、もちもち感もあって美味しい。 もう一つは駅の向かいのビルにあるパン屋だ。ここは鉄道会社のグループ会社がやっているパン屋でどこの駅前にも必ずあるような普通のパン屋だ。ここはお惣菜パン、ハムカツを挟ん

      • Diorama

        恐ろしく風の強い冬の日に、そのジオラマは発見された。そこは使われなくなった朽ち果てた倉庫の地下で、ほとんど人が踏み入れない場所だった。ジオラマは簡単には見つからないように周りを無数にガラクタで囲われていた。しかし、ジオラマの周りは綺麗に片付けられていて、文字どおり塵ひとつなかった。すぐ近くには山積みにされたジオラマの部品が無造作に置かれており、最近まで誰かがこのジオラマに手を入れていることがわかった。 そのジオラマは、その街をものの見事に再現していた。道や建物はもちろんのこ

        • Rapunzel

          香苗は考えざるをえなかった。自分の思い描いた未来について。そして、その経過について。彼女を追い詰めているのは彼女自身だった。それは彼女も嫌という程わかっている。それでも彼女はその考えから逃れることができない。そして、次第に自分の中で大きくなっていく、重い鉛のような感情のことを思うのだ。隆史には、おそらくこの感情のことを話すことはないだろうと思う。わかってもらえないだろうと諦めているわけではない。ただ、なんとなく隆史にそういった感情を説明するのは間違っているような気がしているの

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          sense

          僕は歩いている。走ってはいない。どこを歩いているのかは意識をしない。歩いているということだけ考える。僕はどこへ向かっているのか。そういったことも意識をしない。ただ、僕は歩いている。しばらくすると行き止まりがある。僕は歩くのを一旦やめ、どうやってこの状況を打破するのかを考える。例えば右側に抜け道があるかもしれない。あるいは左側の壁が少し低くくなっていて乗り越えられるかもしれない。少なくとも可能性は考える。この状況を改善する術があることを信じる。 仮に右側の抜け道を選択する。そ

          Starman

          彼は死の予感を携えて、その場所に立っている。そこは高層ビルの屋上で、航空障害灯が間近で点滅している。真ん中には大きな「H」の文字。彼は鉄骨で作られたタラップの上に立っている。なぜ彼がここに入れたのか。そのようなことは今は関係ない。彼は今、必要に迫られてここにいる。 ビルの周りは闇に包まれている。いや、このビルが高すぎて、屋上と同じ高さに他の灯りが存在しないだけだ。このビルが発する光だけが彼の周りを照らしている。ほのかで薄暗い灯りだ。彼はさっきからずっと空を見ている。その日は

          Starman

          memory_reprise

          「起きろ。おい、起きろ。」 警官が男の頬を叩いている。 「こんなところで寝るな。起きろ。おい。」 男は高架下のちょうどインクの垂れたタギングのすぐ下に座り込んでいる。足は大きく前に放りだされ、今にも右肩が地面に着きそうだ。男はゆっくりと覚醒するように目を開ける。大きく口を開けたまま警官の方を見る。 「お前何してるんだ。もうそろそろ朝になるぞ。早くおきろ。」 警官が左腕を掴んで、男を無理やり立たせようとする。男はまるで動かない。それでも警官は両腕を持ち上げて、無理やり

          memory_reprise

          CherryBlossoms

          「なんだかこの木だけ花が多く咲いてない?」と母が言った。 その通り。なにせこの木の下にはぴーちゃんが眠っているから。ぴーちゃんとは僕が幼い頃に大事にしていたぬいぐるみだ。僕はそのぴーちゃんとのお別れの時、ぴーちゃんをこの桜の木の下に埋めたのだ。なぜそんなことをしたのかはわからない。なんとなく、ぴーちゃんときちんとした形でお別れをしたくて、それで埋めたんだと思う。それからしばらくは、一年に一度ぴーちゃんを埋めた時期にお参りと称して、この桜の木の様子を見にきていた。 最初の何

          CherryBlossoms

          belief and free

          私がその事件を知った時に感じた違和感は間違いではなかった。私はその事件に特別な意味を感じたわけではない。ただ、その男が何かしらの思いを持って行動をしており、だからこそ、その男の行動が最終的にはその男自身を追い詰めると感じたのだ。それは直感と言ってもいい。だから、私は彼を止めたいと思ったのだ。そして、私自身もそう行動したつもりだ。 私がその事件を知ったのは新聞の記事だった。私は文章を書くという仕事柄、新聞は必ず読むようにしている。新聞から得られるものは決して多くはないが、普段

          belief and free

          monster

          彼女は運転席に座ったまま、しばらく動かなかった。車で駅まで来たというのにお酒を飲んでしまったから酔いを覚ましたいというのもあったが、それよりも今日確定してしまった事実に、彼女自身まだ気持ちの整理がついておらず、落ち着く時間が欲しかったというのが大きかった。彼女は今日の出来事を思い浮かべる。後悔はしていなかった。いずれははっきりすることであったし、その時間がただ早まっただけだからだ。それでも、その事実が彼女に与えたインパクトは思っていた以上だった。彼女が、彼女自身で雇った興信所

          monster

          monochrome

          今、私の目の前に、両手で顔を押さえ、身悶えしている男がいる。体を小刻みに震わせ、口からは壊れた機械みたいに規則的な呻き声が漏れている。この男が何者なのか、私は知らない。私がこの男と顔を合わせたのがほんの数分前のことだから、当たり前といえば当たり前のことだ。もちろん、この男の名前や年齢、職業も知る由もない。ただ、この男がなぜここにいるのかを私は知っている。いや、知っているつもりだ。そして、彼が今身悶えしている理由も理解している。 その男の隣には私の妻がいる。私の愛おしい妻だ。

          monochrome

          glimmer

          私がその光を見るようになったのは、妻が亡くなって半年が経った頃だった。妻は末期の乳ガンだった。一年に一度、定期的に健康診断をしていたのにもかかわらず、急に胸のしこりが気になるからと病院に行った時には、すでにステージIIIの末期ガンだった。彼女はその時まだ三十五歳で、平均寿命の半分も生きていない。イラストレーターとして事務所から独立して、ようやく一人で仕事が取れるようになってきた矢先だった。彼女からそのことを告げられた時、私は何を思ったのだろう。少なくとも彼女をその悲劇から救っ

          glimmer

          spacetime

          貴子がそれを見つけたのは偶然だった。彼女は何も考えずにその空き地に車を停めたのだ。車を止めたのは泣くためだった。彼女は何か嫌なことがあると車を走らせて、誰もいない林道を登っていって、適当な空き地を見つけて車を停める。そして、人知れず泣き崩れるのだ。今日もいつもと同じように広樹と喧嘩した彼女は、林道を走らせてここまでやってきた。 貴子は生まれつき左腕が短い。右腕の半分くらいしかない。先天的な病によるもので、その傾向がはっきりわかったのは三歳の時だった。親は色々と手を尽くしてく

          spacetime

          twins

          「あなたが殺したのは双子の妹よ。」私はそう言って嘘をついた。私に妹なんかいないのに。ましてや双子の妹なんて。それでも私はそう言わざるをえなかった。だって、私は死んでいなかったし、彼のことがかわいそうに思えたから。 私は、彼に殺された。いや、殺されかけた。彼はその時追い詰められていて、すべてに嫌気がさし、人生に疲れていた。私は一生懸命に彼のことを励ました。なんとかして立ち直って欲しいとできる限りのことをした。それでも、彼の墜落は止まらなかった。彼はどんどん暴力的になり、私を殴

          sink

          僕は世界がゆっくりと沈んでいくのを見ていた。ここは学校の校庭で、陸上トラックの白線が波うっているのが見える。サッカーのゴールは少し右に傾いているように見える。グラウンドに埋め込まれたホームベースがほとんど見えなくなっている。 この日は秋雨前線の影響で一日中雨で、夜になると雨足はどんどん強くなっていった。僕は心配になって、わざわざ雨具を着て校庭まで様子を見に来たのだ。以前から僕は、校庭の地面が他の場所と違い不安定で緩やかだと思っていた。雨が降った次の日の朝に校庭を歩くと足がず

          deep

          するすると滑り落ちるように沈んでいく。ゆるやかに、そしてゆっくりと。全体的な色彩は薄く透きとおった水色で、その中に溶け込むように光が差し込んでいる。光はゆらめているようにも見え、鮮やかな光の反射がまるで万華鏡のような模様を作り出す。音はほとんどしない。かろうじて聞こえる音も膜を張ったように聞こえ、不快な感じはしない。心地よくゆるやかにすべり落ちていく。 男はその時道を歩いていた。その道は幹線道路に沿って設けられた歩道で、物々しいガードレールに囲まれて幅も広く、多くの歩行者で