251.最後の日① なかなか実感が湧かない

彼は最終出社日までバタバタして、こちらで会える「最後の日」となるはずの3月29日は少しだけしか会えなかった。
私は休暇を取って、彼がいつ仕事が終わってもいいように職場とそう離れてないエリアのデパートをウロウロしながら、お揃いの定期入れの目星をつけていた。
結局、彼と会えたときにはデパートの閉店時間をとっくに過ぎてしまったから、買いに行くことができなかった。彼は平謝りだったけど、私は怒ってなかった。仕事なんだから仕方ない。

でもそんなこともあろうかと、30日も会えるように私は夫に「土曜日は私の自由にさせて」と前からお願いしておいた。当初は30日に引っ越しの予定が、31日に変わったから、30日も会えるかもと期待していた。
彼が30日に会おうと言ってこなかったのは、土曜日だから会えると思ってなかっただけで「それなら明日お待ちしてますね」と言ってくれた。

金曜日は22時過ぎに私を見送ったあとに悪友(通称:オオサカ)からサウナの誘いの連絡があり、彼はオオサカとサウナに行っていた。オオサカは隣県からわざわざ車で来たようで、彼も断れなかったのだろう。彼はここ数日の激務と睡眠不足でヘトヘトなのに仮眠室はいっぱいで、その辺の椅子でちょっと寝ただけだと言っていた。

オオサカは彼が転勤すると決まってから3回も会っている。奥さんと不仲で家にあまりいたくないようで、しょっちゅう「パチンコしよう」「飲みに行こう」「泊まりに行っていい?」と連絡があり、最近は彼がサウナにハマっているので、「サウナに行こう」が追加になった。サウナを持ち出せば彼が乗ってくれることを学習したのだろう笑
でも、二人で夜を明かし、朝になって「今日は色々用事あるから」と言って別れるときも、残念そうにブツブツ言ってたらしい。
オオサカ、彼がいなくなって大丈夫かな。私まで心配になってくる。

今日会ったらしばらく会えないなんて、なかなか実感が湧かなかった。
お昼に洋食屋さんでハンバーグを食べてるときも、ここでこうやってご飯を食べるのも最後ですね、と話した。
「そっちは新しい生活だけど、私は何も変わらないですから」
「マイさんも変わりますよ、僕のいない生活に。」
彼も月曜日から新しい生活が始まる実感が湧かないらしい。彼がいない生活。正直、これを書いてる今も実感が湧いてないけど。
「4月から大丈夫ですか?」と聞かれて、大丈夫かどうかはわからないなと黙っていると、
「僕が大丈夫にします」という。連絡はちゃんとするってことなのかな。

ランチのあと、駅ビルの中のお店でついにお揃いの色違いの定期入れを買うことができた。私が金曜日に探し回ったときに見たものと同じようなものが売っていて、むしろ案外彼の家の近くの方が品揃えが良かった。こんなに近くにあったとは。どれにするかじっくり吟味して、彼と過ごしたこの街で気に入ったものがちゃんと買えて良かった。

ケーキを買って、マンションに向かった。この道を2人で歩くのも最後ですね、と言うけれど、口に出してもやはりどこか現実に感じられなかった。


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