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資生堂インテグレートの広告はどう批判されたか。消費者を動かす代案を考える

2016年に炎上したインテグレートの広告「25歳過ぎたら女の子じゃない」のシリーズで、資生堂が取り下げていない広告がありました。
この広告は炎上には至っていないのですが、
批判されやすいだろうな、と感じたので、そのポイントを解説します。

批判されやすいポイントのチェック

広告自体の問題点:問題度 中
結果:炎上
理由:消費者に寄り添わない表現
該当広告

広告の流れ

炎上しやすいポイント


1 パワーディスタンスの職場に共感できない
2 職場での不適切な指摘
3 頑張ってるを顔に出さない=いい女

1 パワーディスタンスの大きい職場に共感できない

まず、職場のパワーディスタンスのあるコミュニケーションが、時代に合わないと感じられてしまう点が挙げられます。

状況から察するに、シーン設定は職場。フリーアドレスではなく、部長と社員の席が決まっているオフィスを思わせます。そんなオフィスで、離れた席から男性上司が、パソコンから目を離さないまま、「今日もがんばってるねー」とつぶやく。

これは、実際にされると困るコミュニケーションあるあるな気がします。
誰に対して言っているのか分からない、でも年上で上司だから誰か反応しないといけない。いわゆる相手に”忖度”を求めるコミュニケーション

この資生堂インテグレートの広告でも、年下の部下と思われる女性が、自分に話しかけてるのかな?と気を遣って「あ、ありがとうございます。」と答えている。

この男性上司と女性社員のやりとりの表現自体は、会社員として働いている人はきっと共感できます。こういう事あるよな…って。上司はもともと職務上で立場が上の人間ですから、立場が下の社員に指示するのは自然なコミュニケーションです。

しかし、その上下のパワーディスタンス(社会的力の差)があるからこそ、ぶっきらぼうにものを言う上司に対して、部下は我慢するしかないという構図は、度々部下の不満の種になります。

さらに、批判されやすいのはその次のシーンです。

目も見ず、「頑張ってるね」とぶっきらぼうに褒めていた上司が、
次はしっかりと女性社員の目を見て「それが顔に出てるうちはプロじゃない」といきなりのネガティブフィードバック

いますよね。最初に褒めておいて落とすコミュニケーションを使う人。「プロじゃない」と言うことで、最初のほめ言葉「頑張ってるね」は無効化。もはや蹴落としたいから最初に褒めて、部下が聞くように仕向けたんじゃないかと思うほど。
また、本当に従業員にプロ意識が足りないと思うのであれば、個室でフィードバックするべきであり、不特定多数の人がいる場所でこのように指摘するのは上司として気遣いに欠けると思われます。

今回のこのシーンは、このようなパワーディスタンスによって気を遣った体験のある女性にとって、”職場のうざいシチュエーション”を表現と受け取られた。

ここに消費者の共感があるならば、
「いるよね、こういううざい人。」という気持ちであり、
広告として見せられると不快感を起こす可能性もあります。

2 職場での不適切な指摘

上司と部下のパワーディスタンスによる気遣いコミュニケーションに加えて、上司の指摘内容にも批判ポイントがあります。
「顔に頑張りが出る=プロ意識の欠如」と指摘している点です。
この文脈では、頑張り =疲れ(/薄いメイク)と取れます。なぜなら、その後のシーンでメイクを濃くすることによって「がんばってるを出さない。」が表現されているからです。

「がんばってる」が出てる顔
「がんばってる」を出さない顔


上司の指摘は、職場での不適切な発言だと捉えられても反論しにくいです。なぜなら、「プロになるには顔に疲れを出さない事/化粧することが大切」というメッセージであり、外見に対する指摘であることは明確です。
上司が本来マネージすべき、職務の能力や態度に直接的に関係しないからです。

これは日本の伝統的な「プロは疲れを見せない、いつも元気であるべき」というマスキュリン(男性社会的)な考え方であり、近年のワークライフバランスを大切にしよう、というようなフェミニン(女性社会的)な考えと反対に位置します。

日本は西洋と比較してマスキュリンが強い文化

それだけでも若年層の消費者からは「いやだな」と思われる表現であるのに、それが、職場の女性だけに向けられていると捉えられることも、批判ポイントでした。

どこから読み取れるかというと、男性上司の外見が、女性社員と同程度のラフである点です。むしろ、きちんとシャツを着ている女性よりも、男性上司の方がスウェット姿ですっぴん。女性も男性も外見の”疲れ”には差がないと思われます。

「プロ意識」があると思われる男性上司はすっぴんに見える。

「プロ意識がない」と指摘した男性上司は立場も上ですし、”外見も疲れがなく完璧で”プロ意識あるんだろう、と思ったら彼の外見からは違いは見れませんでした。なのに女性はメイクが薄いからと言って「プロ意識が足りない」という指摘は、女性のみに外見の良さを求めるという点で不自然です。

実際に、この広告を見た消費者からは、こんな声がありました。

もう一度。
職場に女性性/男性性を持ち込むこと自体がコンプラ違反とみなされるようになってきた現代において、この広告に対して消費者の共感があるならば、それは
「いるよね、こういううざい人。無視しよう!」
という自立の気持ちです。間違っても、
「プロ意識固めて、顔に疲れを出さないようにしなきゃ」
ではないはずです。

3 頑張ってるを顔に出さない=いい女?

しかし、この広告では、この”うざい”上司の指摘に合わせて、いい女になるようなストーリーに仕上がっています。


Z世代など若年層では「疲れちゃうのは皆一緒だよね」「メンタルヘルス大切だよね」という”ありのままを受け入れる”風潮があります。そのため、「頑張ってるを顔に出さない=いい女」と言われると少しずれてるという印象を持ってしまうかもしれません。

更に、広告メッセージはあくまでも「いい女」であって「良い営業職」「良い社員」ではないですから、普段職場で女であることを意識したくないのに意識しなければならない状況の女性は、この広告に共感は出来ないと思います。
ちなみに、男女の非対称性のある広告表現で大炎上になってしまった例もあります。今回よりもっと詳細にジェンダーの観点からまとめています。

批判されない広告案を考える

とはいえ、職場で頑張ってる事を顔に出したくない、いつも完璧でありたいという人もいるはずです。そんなインテグレートのターゲットに、どのようにアプローチしたらよかったか、考えてみました。

不快なコミュニケーションを除く

「プロじゃない」と人から指摘して変化を強要されるー。
今回はそんな-1→0な表現でした。これをターゲットの消費者が自発的に変わりたいと思って変わる、というような0→+1の物語に変えると
「女性は他者の目を気にしなければならない」というような圧力をかけることを防げると思います。
具体的には、同じ職場のシーン設定でも
・プレゼンが上手くいったを表現する
 →「忙しいはずなのに疲れが見えませんね」とフィードバックをもらう
・頑張ってる姿/仕事に励む姿を映す
 →インテグレートの製品で気分アップする姿を映す
等が挙げられます。
あくまでも、「女性だから」などの視点は除き、自分起点であることに注力する。
上司や男性からネガティブな指摘を受ける表現は避けたいところです。


今回は女性の視点から批判が挙がった例を見ましたが、男性視点から批判の挙がった広告もまとめています。



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