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くも膜下出血サバイバー誕生

大きな風船の中を漂っていたような意識から、突然風船の口が開き、ビューンと空気が抜ける口から、私の意識は自分の肉体に戻ってきた。

ここからはごちゃごちゃの現実世界だ

意識が戻りゆっくり目を開ける。
よくドラマで見る、意識がない人が目を覚ますあのぼんやり霞んだ病院の天井が見えた。
夢か現実かわからない。
なにやら騒がしい、声が聞こえたり、機械音が聞こえる。
これは現実であるはずがないとまた目を閉じる。
しかし間違いなく現実だ。
目をもう一度開け、体を動かしてみると、それに気がついた看護師さんが
「グラントさん!グラントさん起きた?グラントさんがなんちゃらなんちゃら…」と他の職員にも声をかけてバタバタし、いろんな人が私のベッドの周りに集まり、私の顔を覗いている。
みんなに声をかけられるが
この人達のことは知らない…
誰?

「分かりますか?」
主治医が自分の名札を目の前に見せて
「見えますか?」
そんなやりとりが続いた記憶がある。

私はあれからどうなったのか?
「グラントさん!グラントさん!」
いろいろ優しく話しかけられたがあまり覚えていない。きっと受け答えもまともにできていない。人工呼吸器もつけていたので喋りにくい。

私が声を搾り出して初めて聞いた質問は
「これは現実ですか?夢ですか?」だった。
はっきり大きい声で看護師さんから言われた
「現実です!」

一気に現実に引き戻された。
救急隊員が来てそこから、ああなってこうなってと思い出しながら…
ぜんぜんわからない。
目を閉じて、目を開けると異国に来たぐらいに
世界が変わってしまった。

意識が戻った瞬間、9月6日月曜日の朝だと思っていた。仕事に行かなくては!
「職場に電話してください」と訴える。
ふいに私は拉致をされたかもと思う感覚もあり「私、娘がいるんです!」とも自分なりに必死で話そうとしていたのを覚えている。

それを聞くみんなは、聖母マリアのような眼差しで、「大丈夫ですよ、今日は9月8日水曜日です。ずっと麻酔で眠ってたんですよ。」あなたは何も心配しなくていいという眼差しだ。

「頭の手術は終わりましたからね。」

点滴に繋がれた手で自分の頭を触っても何もない。何もないじゃないか!
朧げに見えるこの医師はウソをついていると思った。笑
(私の手術はコイル塞栓術、開頭ではない。)

ここで伝えたいのは、私の意識レベルは現実と夢が混乱し、時間軸がわかっていないという事だ。
時間は運ばれた所で止まったままであり、手術をしたことなど理解できていない。
くも膜下出血ときいても理解できない。
それぐらいの意識レベルだ。

私は皆の雰囲気を壊すように、気持ち悪くなり
突然その場で嘔吐してしまった。

「大丈夫ですか?」
「一応コロナの検査もしましょうか…」とヒソヒソ話す声が聞こえる。

ざわざわと嘔吐の処理とみんなが去っていく中

「明日も会いにくるからね。」

と誰かが優しく声をかけてくれた。
うれしいな…会いに来てくれるのか…
朧げの意識でも本当に嬉しかった。
じゃあ私もあなたにお礼を言うために頑張るよ、朦朧としてあなたの顔は霞んでるけど…
あなたは誰?

このブログを書きながらこれも夢だったら
怖いなと思っている。それぐらい夢と現実がはっきりしない瞬間である。

ICUの世界

私の体は人工呼吸器に、点滴に、尿道カテーテル、心電図にフットポンプに繋がれ、身動きが取れない。
病院のICUは宇宙ステーションのようなところで広いスペースにたくさんの機械と独特の機械音がなり、常時看護師さんがいる。本当に自分は病人だと思い知らされる空間だ。

ICUでは寝たままの状態で、ハイスピードで2人がかりで看護師さんが毎朝体を拭いてくれ、寝たままで頭も洗ってくれる。おむつも変えてくれる。私は赤ちゃんだ!

ICUで目覚めてからは、天使のような若い看護師さんがアイスマクラを持ってきてくれたり、顔を拭いてくれたり一晩中様子を看てくれる。
苦しい、痛い。ICUの看護師さんは肉体的に1番大変だった時期の私を知っている人だ。
退院時には、元気になった私の姿を見て涙を流してくれた。ICUの看護師が1人で看る患者は2名だそうだ。いかに緊急性が高いかが分かる。

ICUでは管に繋がれ息をしてただ生きている。
生きてるだけの空間だ。
外の景色を見る事もない。
天気は窓からの光の差し込み具合で分かる程度。
ほとんど話す事もない。
まだリハビリもできる状態ではない。
ICUの経験はしなくていいのならしない方がいい。元気で健康な方がいいに決まってる。
ICUでの世界は自分で自分の事が何ひとつできない世界だ。

ここからの痛みとの闘いはレオナルド・ディカプリオ主演映画「甦えりし者」の主人公と自分が重なる。
ディカプリオが熊に襲われて瀕死の状態で生きているサバイバーなら
私は今いろんな管に繋がれて生かされている、どうやら頭がおかしくなったサバイバーだ。

自分がどうなるのか、何も考えれない。
痛い。痛い。頭が痛い。ただそれだけだ。
そして機械音の中で眠れない。
寝返りがうてない。
気持ち悪い。
痛い。頭が痛い。
娘が心配だ。誰が職場に電話したのだろう…
家族や職場の人はどう思っているだろうか…
病院の外の世界はどうなっているのか!

あくびが出る。
眠れない。気持ち悪い。痛い。
怖い。身動き取れない。苦しい。
死ぬかも知れない。

聞けば生き残ったはいいが、「くも膜下出血」の怖い所はここから2週間は脳血管攣縮脳梗塞と水頭症になるリスクが高いため、体内に入れる水分量と出る水分量を徹底的に管理される。
次は脳梗塞にならないための闘いだ。

生き残った者のさらなる試練だ。
つづく

退院後、アート製作がリハビリによかった。入院中の辛い思いを頭の中にあるコイルに例えて英語で書いた作品。

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