『氷点』

三浦綾子さんの作品。

娘を殺された医者が、娘を殺した犯人の実の娘を育てるという話である。

それぞれの登場人物が複雑な思いを抱いて生活していると感じた。行動だけに着目するとなぜこのようなことをしたのか理解できない場面が多いと思う。ただ、それぞれの心情を見ていくと少しは同情できる場面もある。特に徹は苦しい立場にあると思った。

陽子はとてもいい子だと思った。

印象に残っている文

村井はちょっと皮肉に唇をゆがめた。冷たい、ニヒリスチックな表情であった。

(きらいなのじゃない)拒絶は媚態であり、遊びであった。次に来るものをいつの間にか夏枝は待っていたのだった。二十八歳の村井にはそれがわからなかったのだ。

「もし、自分の子だとしたら、もし自分だったら……というように、いちいち換算しないと、ものごとを判断することができないのね。人間ってものさしがいくつもあるものね」

「夫婦なんて、ますますわからんもんだよ。長年住みなれたわが家に、まだ自分の知らない部屋があったような、そんな不気味なわからなさがあるよ。」

「女は、おなかの中に赤ちゃんがいるとわかった時から、顔などみなくてもかわいいものですわ。男の方って自分の子が生まれても、しばらくは父親らしい実感がないとおっしゃるけど。わたくしね、この子をもらおうとおもったときに、この子を産んだような気がしましたの」

「おれが、乳児院の子を見にくる奴らに、いつも腹の立つのはソレなんだ。何か一段低いものでも見るような目つきで、子供たちを見るんだ。」

「結婚なんて、どうせ、したところで、大ていの人間は後悔するさ。しかし、だから結婚しない方がいいということでもないんだ。人間というものは、どうせ何をしたところで、年中後悔したり、愚痴をいったりしているもんだ」

陽子は北原の飲んだコップで水をのんだ。

「『斜陽』にひめごとを持っているのは大人のしるしと書いてあったの。陽子も大人になったのね。ノーコメントよ、おかあさん」

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