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リッチクラブ 5月14日〜365日の香水

香水の佇まい
香水を鑑賞すると、纏った人、その人のいる場所、情景が香りととともに”立ち上って”くることがある。
香りは形がなく可視化できないので、抽象概念的で具体性がない。
その分、個人の嗜好や感情、記憶と結びついたときには、その人にとって極めて具体的なものになるのが面白い。
私が先に書いた”出会った香水から沸き立つ情景”は、私の嗜好や感情、記憶とはあまり関係がない。
言葉にすることが難しいけれど、香りがこちらのイメージを限定してくる感覚だ。そこには香りそのもの、ネーミング、パッケージ、ボトルデザイン、ブランド、リリースされた時代なども関係してくる。
それらの関係性の中で感じる「香りの佇まい」というものがある。
というよりも、たまにそのような「佇まいのある香り」に出会うことがある。

Ricci cluc/Nina ricci/1989
ニナリッチのリッチクラブ(ricci club/nina ricci)はまさに、そういう”佇まい”を持った香水。
ヨモギの香るトップノートからサイプレスやカーネーションでピリリと引き締まるミドルノート、やがてバチュリやシナモンを従えて香りはドライダウンしていく。
メンズフレグランスとしてのスパイシー感、ヘビーさを持ち合わせながらも、ローズやミュゲが優しく、バニラが甘く香ることで、とてもエレガントな全体像。ニナリッチはフランスのブランドだけれど、どこか英国風、フランス人が時々憧れを抱く英国の紳士を思わせる。

クラブ~紳士たちの社交クラブ
ニナリッチ的な優美で正統派を好む男性のための集い、そのイメージで香水「リッチクラブ」は誕生したように私は思う。
また個人的な感覚だけれど、「クラブ」という響きには、少し排他的な要素を感じる。
要件を満たし、審査を通らなければ出入りが許されない、排他的な世界。
英国発祥の上流階級の紳士たちの「社交クラブ」を思わせるニュアンスが漂う。
ニナリッチというブランドがそれを持ち出すのにふさわしいということも、それを後押ししている。
スポーツブランドやカジュアル路線ではそのようなイメージの直結は難しい。
厳格な規律はなく比較的、開かれた場所として個人宅で女主人が主催していたフランスのサロン文化とはクラブは対照的だなと思う。
最も歴史あるクラブを調べるとwhite'sが出てきて、これはロイヤルファミリーも会員で1693年の創設だそう。

クラブの変容
多様性の観点で現在では国籍や性別を会員資格として問わないクラブも増えているようだ。また迎賓館よろしくレストランを擁しセレモニーのために非会員にも場の利用を提供しているところも珍しくない。
伝統や歴史をどこまで重んじでいくのか、多様性を許容した時に損なわれるものはあるのか。
排他性や差別を是認する気持ちはない。
同時に、継承されてきた文化や価値観の変容を思うと、スッキリしない感情が生まれる。
短期的に見たら継承性だけれど、もっと大きな視点で観たら変容だと理解している。
変容するならば他者を尊重しながらエレガントに。そういうことなのかもしれない。
そういう意味で、リッチクラブはとてもエレガントな存在の香水。

香り、思い、呼吸。
5月14日がお誕生日の方、記念日の方、おめでとうございます。


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