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不親切な料金表 - モデルケース報酬の提案

櫻井 光政
弁護士
士業適正広告推進協議会 代表理事

その昔、日弁連には「弁護士報酬基準」が存在し、各弁護士会もほぼそれに倣う報酬規程を設けていました。ところがこれが公取委から独占禁止法違反の疑いありと指摘されたことから、平成16年からは、それぞれの弁護士(法律事務所)が独自に料金を定めるようになりました。

法律事務所ごとに料金が違うとなれば、利用者にとってその比較検討は重要ですし、そのために広告が果たす役割は極めて大きいはずです。しかしながら、現実には広告を見比べての料金の比較は簡単ではないようです。この点は特に刑事弁護の費用について顕著なように感じます。

そこで私はつい最近受任した国選弁護事件をベースに、4つの法律事務所の料金表に当てはめて弁護士費用の総額を検討してみました。事案は若者(成人)が仲間と一緒に繁華街のクラブで羽目を外して店員を殴ったり他の客を脅したりしたという事件です。

店員を殴った罪で逮捕され、20日間勾留[※1](「第1勾留」といいます。)、客を脅した罪で再逮捕され更に20日間勾留(「第2勾留」といいます。)、第2勾留満期の前日に客との示談が成立、処分は罰金という事案でした。私は第1勾留の間に6日、第2勾留の間に5日、計11日接見(面会)に通いました。

4つの事務所の料金を比較するにあたり、料金に幅があるときは最も低額の料金を選択しました。その結果は・・・

A法律事務所

刑事事件に強い弁護士を謳う事務所です。
ここは着手金と成功報酬しか定められていません。本件は逮捕されている場合の着手金[※2]55万円、示談・不起訴の成功報酬が22万円で、合計77万円になりました。

B法律事務所

刑事法律事務所と名乗る事務所です。
ここは着手金と報酬のほかに接見[※3]費用が定められています。本件は身体を拘束されている事件として着手金が44万円、捜査段階成功報酬として33万円に加えて1回あたり最低1万1000円の接見費用が掛かりますので、11回だと12万1000円になり、合計89万1000円になりました。

C法律事務所

刑事専門を謳い、積極的な宣伝を展開している事務所です。
普通の事件の着手金66万円、成功報酬罰金判決66万円に示談1名分22万円、弁護士の出張日当往復所要時間1時間以内4.4万円なので11回では48万4000円が加わり、合計191万4000円になります。

D法律事務所

著名な刑事弁護人が在籍することから刑事に強いことを謳う事務所です。
ここは着手金と報酬しか定められておらず、着手金報酬金ともに33万円で計66万円となります。C事務所とは3倍近い開きになります。

残念ながらこの比較は一般の方には難しいだろうと思います。広告の観点から言えば、費用の比較の点では利用者の役に立っていない。特に、C事務所の料金は、私からはやや高すぎるように感じられますし、依頼しようとする人がパッと見てもこのような高額になることは想像がつかないと思います。

因みにD事務所が私の事務所。国選で受任した私の国選弁護報酬は未定ですが、おそらく20万円程度になりそうです。

モデル事案を数例設定して、各事務所がこれに対する料金を明示するようにしたら、利用者にとって親切な広告になるはずです。今後はこれを提案していきたいと考えています。

[※1]
逮捕された被疑者は、通常、48時間以内に検察庁に送られ(「身柄送検」あるいは単に「送検」といいます。)、検察官はそれから24時間以内に裁判所に「勾留請求」をします。そうして裁判官が「勾留決定」をすると、被疑者は、勾留請求があった日から10日間身体を拘束されることになります。この身体拘束を「勾留」といいます。

[※2]
弁護士に事件を依頼するときは、委任の時に「着手金」、事件終了時に「報酬」「成功報酬」等の名目で弁護料を支払うことになります。

[※3]
被疑者・被告人との面会のことを「接見」といいます。

以上


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