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「一人暮らしをしたい。でも親は頼れない…」居場所のない若者の住まい支援 現状と課題/後編

18歳で児童福祉法による支援の枠から外れてしまい公的な支援にたどり着きづらいうえに、住居の確保にも困難があるという、家族を頼れない若者たち。そうした若者たちの支援に取り組む特定非営利活動法人サンカクシャ代表の荒井佑介さんに、住まいを切り口にお話を伺う今回の企画。

前編では、サンカクシャが運営する、家族を頼れない若者が自立した生活を送るための足掛かりとなるシェアハウスについてお伝えしました。
後編では、支援を行う側が感じる彼らをめぐる住まいの課題とそれに対するサンカクシャの取組みについてお伝えします。


既存の住宅支援制度と助けを必要とする若者とのミスマッチ

シェアハウスのリビング
サンカクシャでは、2023年2月現在、男性用2拠点、女性用1拠点の3拠点18部屋を管理し、常に満室の状態といいます

――家族に頼れない若者の居住支援を通じて、直面する課題にはどんなものがあるのでしょうか?

一番は、若者に対する公的支援が少ないことです。
住むところがない、サンカクシャのシェアハウスは満室、生活保護を利用してもいい―という子が、いざ役所へ生活保護申請をしようとすると、大概“無料低額宿泊所”へ案内されます。
ですが、高齢者が多かったり、ルールや制約も多く、若者が利用する施設として適していなかったりすることが多いです。
生活保護受給の可否が出るまでの2週間、さらに引越し先が決まるまでの1ヶ月、そこでの生活に耐えられる子はほとんどいませんでした。つまり、生活保護を利用することができなくなるのです。

そうなると、民間の支援団体が住む場所を用意することになります。サンカクシャも含め、若い人たちの生活をフォローする民間団体では、ビジネスホテルや団体が運営するシェルターに身を置いて生活保護を申請してもらい、その後アパートなどに引越してもらう、という支援の流れが一般的です。
基金の補助や助成があるとはいえ、住まいのサポートについては、民間団体が担う部分が多すぎだと感じています。

――生活保護利用者は引越しやお部屋探しの制約が厳しいとも聞きますが、若者の場合でも同様でしょうか。

生活保護を利用する子の場合、物件を探すことが大変だと実感しています。
限られた賃料、東京都の場合は5万3700円の家賃補助額内の物件が少ないため、探すのにも一苦労です。
幸い、サンカクシャでは活動に共感してくださる不動産会社さんがいつも何とか仲介してくださっているので、助かっています。

こうした事態が起こっているのも、居住に関する既存の制度が若者向けにつくられてはいないためで、制度と現実のニーズのミスマッチを痛感していますね。

サンカクシャでは、シェアハウスの本格スタートと同時期に、不動産会社の方からマンションの清掃を条件に空き室を格安で借りられることになり、サブリース的に若者に部屋を貸すことも始めました。
というのも、シェアハウスだけに頼りすぎていたという反省があったからです。共同生活が難しい子もいること、生活保護申請のために当座の住所を確保しないといけない、といった要因で、今サブリースを増やしていきたいと考えて物件を探しているところです。


皆で若者の住まいを支援していこうという社会的なムーブメントが起きてほしい

シェアハウスでの住民会議の様子
サンカクシャのシェアハウスでは、スタッフも交えつつ若者主体でシェアハウスのルール決めを行う住民会議を定期開催されています

――今後の若者の住まいをめぐる問題に、社会ができることは何かあるでしょうか。

一つは、先ほどもお話しした民間団体の持ち出しが多い点に関して、団体だけが負担するのではなく、皆で若者の住まいを支援していこうというムーブメントをつくっていきたいですね。
寄付で応援する、物件オーナーが数部屋を若者向けに貸し出す、といったアクションもありがたいですが、まずは“住まいすら確保できない若者が多い”“住まいを確保できない若者に対する支援がない”ことを認知してもらいたいです。

二つめに不動産業界に特化して話すと、親を頼れず住まい探しに難を抱える若者に対して理解ある大家さんとのネットワークを築けたらいいなと思っています。
サンカクシャも、これまでもそうしたネットワークに支えてもらってきた実感があります。ですので、不動産会社の方々にも「この大家さんは協力的だよ」といった感じに、団体と大家さんをつないでもらえたらうれしいですね。

三つめが、空き家や空き室を貸してくれる方が増えてほしいと期待しています。
昨今空き家問題が言われていますが、オーナーさんが空き家とは自覚せず持て余している状態の住宅が多いのではと、個人的に感じています。
そうした住宅を、大変な状況に置かれている若者が増えている現状に活用してもらえると助かるなと、お願いしたいところです。

――サンカクシャのこれからの展望を聞かせてください。

住まいの支援に関しては、「シェアハウスを増やせるだけ増やす」「短期間の個室シェルターをつくる」「自立援助ホームをつくる」を三本柱に、今後取り組んでいきたいと考えています。

また、地方拠点を置くことも視野に入れています。
相談を受ける子の中には、「東京へ行けば何とかなる」と思い描いて地方から都心に出てきたものの、生活が立ち行かなくなる子が多いです。
池袋にあるサンカクシャから1時間半圏内に新たな拠点を置き、その周辺で生活コストを安く抑えながら新拠点を居場所にして孤立することなく、仕事を介して地域住民ともつながることができる―そんな地方の盛り上げ方もできたらと構想を練っています。

それから、現在、運営の8割を助成金でまかなっているため、寄付を増やして運営を安定させて基盤を築いていくことも目標ですね。
既存の制度を使って安定していくよりは、どんどん新しい課題に着手していち早く事業化し、それを社会に還元していきたいというのが、サンカクシャの理念です。
そのために、自主財源をしっかり持って、新規事業を次々と立ち上げ、追随する人や課題の認知を増やして引っ張っていく役回りを担いたいと思っています。

おわりに

インタビューの中で、支援をしてきた若者のことを「子」と呼んでいた、荒井さん。まるで友達のように、伴走支援を行う様子が伝わってくるお話でした。
一方、“ハウジングファースト”という言葉があるほどに、安心して暮らせる住まいの確保は重要なのにもかかわらず、家族を頼れない若者の多くは「“住まい探し”の概念がない」という言葉から、課題の深刻さを感じます。
人は孤独の中でもホッと落ち着けるものがあると、心が楽になるといいます。見守る大人の存在が落ち着けるものであれば、彼らの生きづらさも解けていくのではないでしょうか。


プロフィール

荒井佑介(あらい・ゆうすけ)
1989年12月生まれ、埼玉県出身。2008年から路上支援に携わり、貧困問題の背景を考え始めたことを契機に2010年頃から小中学生対象の学習支援に参加する。支援現場で、高校進学後に、中退、妊娠・出産、進路就職でつまずく子どもたちを多く見たことから、15~25歳の若者を対象とした支援を行うNPO法人サンカクシャを2019年立ち上げ、居場所のない若者の自立のため団体運営と現場支援の双方に尽力する。


【参考リンク】
▼サンカクシャ

✳︎LIFULL HOME’S
✳︎LIFULLマガジン
✳︎株式会社LIFULL

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