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声があなたの全てを物語る? ~身長、体格、年齢だけでなく、育った環境や既往歴、家族のことまであらゆることがその声に刻まれているんです。

「声は履歴書以上に個人情報を晒します」という声の研究者・山﨑広子さん。声の出る仕組みから解説します。エース2022年春号・特集「わたしの声って。」より

まずは声が出る仕組みを知る

 声を出すときには呼気が声帯を振動させます。声帯は薄く繊細な粘膜と靱帯(じんたい)と筋肉からできていて、いわゆる喉仏の中にあります。多くの人は声帯で声が作られると思っていますが、声帯から出される音は「声帯原音」といって、「ブー」というとても小さい音なんです。その音が咽頭、鼻腔、口腔を通るときに共鳴することで声になります。ですから、その共鳴空間を声道といいます。
 私たちがものを飲み込むとき、喉仏が上下に動きますね。ここは喉頭という軟骨で、気管の入り口にあり、真ん中に声帯、上部には喉頭蓋(こうとうがい)というふたがあります。声帯と喉頭蓋は呼吸をしているときには開いていて、食べ物が通るときは気管に蓋をします。つまり、喉頭は気管や肺に飲食物が入るのを防ぐためのものであって、声帯も気管を守るのがもともとの役割です。共鳴腔である咽頭や鼻腔も呼吸器官の一部ですし、言葉を発音するために必要な舌や歯、唇は消化器官の一部。つまり声は、喉に楽器のような専用器官があってそこから出ているわけではなく、身体の生命に関わる器官を利用して、多くの部位の共鳴によって作り出されているのです。

声の高低は身長と体格が関係する

 一般的に人は2オクターブ前後の声域を持っています。では、地声の高さは何によって決まるのかといえば、まずは声帯、それから声道の長さです。これは身長に比例していて(もちろん例外もありますが)、背が高い人ほど声帯が長く、声が低い。逆に、背が低い人は声帯が短いので声が高くなります。また、骨格がしっかりしている人は共鳴腔が広いので豊かな響きを持っていることが多い。基本的に、声帯が最も弛緩(しかん)した状態のときに一番低い声が出ます。それに対して、高い声を出すときは声帯をピンと薄く引き伸ばします。声帯は元の長さより短くはできないので、高い声は伸ばせても低い音域を広げることはできません。
 また、民族による骨格の特徴も声に関係してきます。白人はアジア人に比べると身長が高くて胸板が厚めですから、声帯は長く、胸の共鳴域が広くなります。黒人は口腔が広いので、豊かな響きで独特な声を出すことができます。とはいっても声を作る要素のうち、生まれ持った骨格や声帯などの素質によるものは20% 程度。あとの80%は、育ってきた環境や性格、発声の癖と、そのときの心身の状態によるものです。

声を決めているのは脳だった!

 自分の声が嫌いな人は、脳が嫌いにさせていると言えるでしょう。それは脳が出したい声ではないからです。生まれたばかりの赤ちゃんは複雑な発音を聞き分ける聴覚を持ち、聞こえる音を全て取り込み、言語を話すために蓄積します。脳は取り込んだ音を分析して分類し、無意識領域に音のデータベースを作り続けます。生まれてから聞いてきたさまざまな音は、その人の声を作る材料となっているのです。
 人は環境に合わせて脳が微妙な調整をしながら声を作っていきますが、これは環境のあらゆる要素が脳にフィードバックされることで無意識に作られるもの。例えば、世の中に高い作り声があふれていれば、無意識に自分もそういった声を作ることになります。必ずしも「脳が作った声」=「脳が出したい声」になるわけではないということです。

中国に古くからある易学「声せいそう相」とは

 中国の宋時代に書かれた『神相全編(しんそうぜんぺん)』には、声を聞けば体質や性格から、生い立ち、既往歴、親や兄弟のことまで分かってしまう「声相」について記されています。「あなたにはお兄さんがいますね」「引っ越しが多かったみたいですね」「お母さんは心臓が悪くありませんか」「10代後半から頭痛持ちのようです」など。初対面なのに、こんなことを言い当てられたら驚きますね。
 なぜ、こんなことが分かるかと言えば、声にはあなたの過去と現在の心身状態が全て刻まれているからです。あなたがどこで生まれどのように育ったか、どんな性格で昨日何を食べたか、声はあなたの人生を記録し続けています。さらに、この『神相全編』には未来も占うことができると書かれています。他にも、東洋医学書『難経(なんぎょう)』には声に含まれる音で病気を診断する方法が書かれていますし、アメリカの大学病院では録音した声から特定の病気を発見する試みが始まっています。このように、声の統計と分析によって、人生の道筋が見える可能性があるのです。

声にあなたの全てが表れてしまう理由

 声を出すときは、声帯や喉だけでなく身体のあらゆる器官が使われています。ということは、どこかの器官に異常があれば、それも声に出てしまいます。消化器官や呼吸器官だけでなく、腰痛や骨折、生理や妊娠というホルモンの変化も声に表れます。また、どんな表情で話しているかも分かります。笑ったり、眉毛を上げ下げしたり、しかめ面をしたりすると、表情筋の動きで共鳴が変化するからです。
 例えばアメリカでは「テレフォンパーソナリティ」といって、声にその人の人柄が表れるから、声はすごく大事だよといわれます。声だけで営業成績を上げられるなんていうことは当然のように言われていますし、あるホテルでは、電話を受けるときは必ず笑顔にしてから声を出すというルールを徹底
させたとか。それほどに声は人の状態を表すものであり、それを聞いた人も少なからず何かを感じ取るものなのです。

解説:
山﨑広子
さん(やまざき・ひろこ) 
一般社団法人「声・脳・教育研究所」代表。音が心身に与える影響を音響心理学、認知心理学をベースに研究。特に声と心身のフィードバックに着目、3万例以上を分析。著書に『8割の人は自分の声が嫌い』『声のサイエンス』『心を動かす「声」になる』ほか。
https://www.yamazakihiroko.com/

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