手形に込められた祈り。痛みを癒やす「お手足」の信仰
江戸時代の手形まで残る、福井県若狭町の三方石観世音(みかたいしかんぜおん)のお手足堂を訪れました。
福井県若狭町三方の山腹に建つ三方石観世音は、地元では「石観音」と呼ばれ、古くから手足の病気やケガに効くと信じられてきた。そのご利益にあずかろうと福井のほか滋賀や京都など県外からの参拝者も多い。お堂を守るのは三方の住民。委員が交代で一日も休むことなく世話をしている。委員長の峯森啓和さんに話を聞いた。
「手形をいつから奉納し始めたのか、はっきりは分からないけれど、最初は村の人が自分で手形や足形を作ってお供えしたんだと思います。それを持って帰って痛むところを、治りますようにってさすっていたらしいです。例えば右腕が痛むなら、右腕の手形を作って、その手形で痛むところをさすりながら『南無大慈大悲石観世音菩薩』と唱えて回復を祈ったそうです」
次の人へつながる信仰心
「痛みが治ったら使っていた手形を納めて、お礼に一つ新しい手形を作って奉納する。それを次の人が借りていく。それが治ったらまた次というふうに、先の人から次の人へつながっていく。これを『お手渡し』といいます。今は自分で手足形を作る人はいないから、こっちで作ってお祓いをしたものを、欲しい人が持っていく。それで治ったら納めてもらう。そのときに新しい手足形を買ってお供えしてもらって、それを次の人がまた持っていくんです」
実際にお手足堂の中を見せてもらったところ、その量に驚かされた。明治元(1868)年の洪水で手足形はすべて流失したとされるが、それでも多くの手足形が床から天井まで積み重なっていた。福井県が行った調査では約6万点を超える手足形があり、いちばん古いものは文政9(1826)年に奉納されたものだった。天保年間(1830~1844)のものも48点あったという。今は3455点が県の有形民俗文化財に指定され民間信仰を示す資料となっている。
写真=松木祐和
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