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清水ミチコのあの人になったつもり! ~「誰かになりきって、誰かが言いそうなことを言ってるのにすごい幸せを感じる」という清水さんのお話しです。

――ものまねを始めたきっかけは?
 中学の頃、私だけでなく、みんながアイドルのものまねをしてたんです。当時は、天地真理さん、桜田淳子さん、山口百恵さんとかが絶頂期。天地真理さんの「ひとりじゃないの」という曲を友達7人ぐらいで歌ったり。全然一人じゃなかったんだけど(笑)。だから、特別に自分だけが目立ってるという感じはなかったですね。
 卒業式のとき、卓球部の後輩の女の子が私のところへやってきて、普通だったら「上から2番目のボタンが欲しい」なんて言うと思うんだけど、「最後にものまねを聞かせてほしいです」って。すごい真剣に言われたので、自分はそういうことに長けてるのかなっていう意識を初めて持ちました。

――別れの場面に、ものまねを?
 はい、とてもうれしかったですね。そんなこと頼まれるなんて思ってもみなかったから。高校に進学してからは、ものすごく内向的でした。自分の部屋で大好きだった桃井かおりさんになりきって一人でセリフを言うとか。矢野顕子さんの音楽に感動してからは、矢野さんのレコードを聴きながら、こういうふうに弾くのかなってピアノで弾いて、またそのフレーズを聴き直し
てはもう一度弾いてって。人に聞かせるというよりは、自分の満足のために必死にやっていた感じです。それがものすごく楽しかったんですよね。
 芸能人って、自分の声で自分が言いたいことを表現するものだと思うんですけど、今でも私はそれがなくて、誰かになりきって、誰かが言いそうなことを言ってるのにすごい幸せを感じます。

松任谷由実

――影響を受けた人は?
 ちょうどタモリさんが出てきた頃、『空飛ぶモンティ・パイソン』というテレビ番組があって、当時の私が知らないような文化人で、例えば寺山修司さんの口調で言いそうなことを言うとか、四カ国語麻雀をやるとか、そういうのを見て夢中になりました。ただ、私が住んでいたのは飛騨高山だったので、ラジオで『オールナイトニッポン』を聞くにしても、どこに行けば電波が飛んでるんだみたいな感じで、それはそれは大変な状況でしたけど。

――大学進学をきっかけに高山から上京を?
 はい。短大生だったんですけど、東京ってすごいと思いましたね。紀伊國屋ホールに遊びに行ったとき、ロビーに黒柳徹子さんがいて、うわー!なんて奇麗なんだろうって思ってたら、後ろからどこかのおばさんがつかつか歩いてきて「ねえ、悪いんだけど今何時?」って黒柳さんに聞いたんです。黒柳さんも「8時ですよ」って答えてて(笑)。
 あとはサブカルが好きだったので、そういうのに強いのも東京という感じでした。矢野顕子さんをはじめ、糸井(重里)さんとか、ジャズの山下洋輔さんとか、あの辺りの人にすごく魅力を感じてました。

――テレビデビュー前にラジオの仕事もされていた?
 そうですね。ただ、ラジオのために数時間かけて書き上げたコントよりも、たった一言、その場で思い付いたものまねをやった方が全然ウケたんですよね。だから、ものまねって得なんだなと思って。笑わせようとしていることへの理解が早い。
 漫才だと3分は要るじゃないですか。でも、ものまねだと10秒くらいですよね。みんなが知ってる有名な人、例えば小池百合子さんだと最初の10秒で伝わります。

小池百合子

――ものまねをしようと思うのはどんな人ですか?
 権力を持ってる人や、自分に自信がある人は面白いし、なりたいですね。自分を客観視できてる人はあんまりやってても面白くないんです。その人が主観で生きている場合、例えばデヴィ夫人みたいに、誰になんと言われようとウクライナに行くし、救援物資を届けるっていう人は、自分の目線で生きています。そういう人って、こういうふうにも見える、というように揶揄し
ても面白いんですよね。

――ものまねをする相手をずっと観察していますか?
 丁寧なものまねをするタイプの方は相手のことをずっと見てるし、ずっと聞いてるみたいなんですけど、私の場合は丁寧じゃない。“印象派”っていわれています(笑)。似てないのもすごくあるんですけど、それでガーッとやっちゃった方が、なんか面白いっていうか勢いがあります。

林修

――デビュー当時、女性でものまねする方は珍しかった?
 男性でものまねする人は割といたけど、女の人で特に口が悪いのは珍しいって。永六輔さんが「黒柳さんのことをいい感じで声も高くまねする人はたくさんいるけど、ちょっと低めの声でちゃかす人はいなかった」とおっしゃって。私くらいからちょっと芸風が変わってきたから「ものまねというジャンルじゃない言葉を作ってみたら」と言われたんです。それで、新しい職種
を考えようと、「ボイスコピーはどうだね」「じゃあイミテーション・シンガーは?」「あ、それいいですね!」なんて言って。それで私もしばらく職業はイミテーション・シンガーでやってたけど、全然浸透せずでしたね(笑)。

――清水さんといえば、顔マネも傑作です。
 最近はあまりやってないけど、ライブの幕間映像で誰かになりきってインフォメーションをしたりしています。そういうときのメイクは、プロの人がやっても私がやっても、とにかく自分がその人なんだって、嘘でもなりきった方が面白いものができますね。
 例えば写真加工アプリってユーモアがないじゃないですか。アプリで誰かにそっくりになっても、笑いって生まれないんですよね。人間がわざわざ時間をかけて愚かなことをしてるのが、みんなに伝わるからなのか分からないけど、似てるから面白いわけじゃないと思いました。

草間彌生

――独自の切り口があると感じます。
 自分の発見みたいなのがあって、「この人ってこういうとこあるよね」というのを見つけたときに勝利するというか。自分の発見を、みんなと共有する。そこに共感したときに人間って笑うみたいです。小池百合子さんが英語をわざわざ出す感じもそう。あれはいつまでたってもウケますね。権力がある人ってやっぱりおいしいです(笑)。

――内向的な性格から武道館に立つまで、どんな心境の変化が?
 人を笑わせるとか、楽しませるとか、一瞬でも人を幸せにするのは、小さい頃からすごく好きだったんです。だけど、相手が5人以上になってくると、全然できない。で、デビューして1回ライブでウケた。それは楽しかった。ところが2回目、3回目になるとプレッシャーになってきて、自分の弱いところが見えてきました。
 特にテレビは、今まで自分はクラスで面白かったはずなのに、何でだろうっていうぐらい難しかった。クラスで面白い人って、授業が始まったり、ここまでというのがあるし、先生に叱られるとか突っ込みがあるから、どんなにボケても必ず面白くなる。また清水が叱られた、とかね。だけど、大人になって2時間分ギャラを払うので、自由にふざけてくださいって言われると、ふざけるって何だっけ?みたいな、すごく難しく考えるようになってきて、何やっても楽しくない。ネタもハートでやるんじゃなくて、頭の中でこういうふうに言うんだと義務みたいになって、落ち込んだこともありました。そのときは心理学の本を読んだり、たくさん勉強しましたね。 
 そんな中で一番ハートにきたのは「そんなに誰も見てないよ」って言葉。そりゃそうだ、一挙一動ドキドキしてやってもしょうがないもんなって。それから自分も中年になって、だんだん図々しくなったのか平気になりました(笑)。

――ステージでの緊張感は計り知れません。
 メンタル的な本を読むと、ステージに出たときに、みんなが自分を見てるっていう状態はまだまだ。ステージに出たときに、私があなたたちを見ているからねって、矢印をこっちから出すというのがあって、確かにそうなんですよね。あんまり謙虚にならず、見てるのはこっちだからねという姿勢で臨む。久本雅美さんでも野沢直子さんでも自分の目線で気持ちよくできる人ってそういうところがあるなと感じて、横で見ながら勉強になりました。
 それに、緊張ってそんなに駄目じゃないっていうか、緊張がない人って、そんなにユーモアもないんですよね。だから緊張も大事。緊張感と一緒に出
ないと駄目なんです。あがり症の人にアドバイスするなら、例えば急なスピーチの場面で“理想の自分”のものまねをする。「本当の自分はこうです」って見せるんじゃなくて「こんなふうだったらいいな」と芝居をするように一枚かぶって出てみる。あとは自信を持ってる人のまねをすると全然違う自分
が出てきたり。一歩間違えると詐欺師になっちゃうかもしれませんが(笑)。
 ただ、知り合いのピアニストいわく、いつも緊張するから緊張しない方法をずっと考えていて、ある日緊張せずに弾くことができたんだけど、それは全然楽しくなかったんですって。だから緊張はちょっとあるものとした方が、楽しい結果が待ってるんじゃないか、というふうに私の考えは落ち着きました。

桃井かおり

――ものまねしている方とは近しい仲に?
 どうだろう、桃井さんからは、「もう日本にいる桃井かおりのことは、みっちゃんと椿鬼奴に任せた」って。さすが大物、いいこと言う(笑)。もちろん憧れはありますし、やっぱりご本人にお会いしたらビッと緊張が走ります。嫌われたくないし。ただ、私の気持ちの根底には「ものすごくこの人が好きだ」というのがあるので、どんなに揶揄しても仲良くなれる感じがする
んですよね。でも、小池百合子さんはさすがに怒ってると思いますけど(笑)。

話:清水ミチコさん(しみず・みちこ)
1960年岐阜県生まれ。タレント。86年ライブデビュー。テレビ、コンサート、YouTube「清水ミチコのシミチコチャンネル」など多方面で活躍。CDに『趣味の演芸』『バッタもん』、DVDに『私という他人』、著書に『主婦と演芸』『私のテレビ日記』『三人三昧 無礼講で気ままなおしゃべり』『カニカマ人生論』など。

写真提供=JAMHOUSE


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