世界の郷土菓子めぐり 見たこともない、その土地で昔から愛されるお菓子を巡る !郷土菓子専門店を営む林周作さんのスイーツジャーニーです。
子どもの頃からお菓子作りをしていたので、お菓子に対する好奇心はずっとありました。僕はちょっとひねくれた性格というのもあって(笑)、誰もやってないことをやりたいと思っていたときに「世界のお菓子」ってひらめいたんです。ネットで調べると全く知らないお菓子が世界にいっぱいあることが分かりました。
そこでまずはヨーロッパへ飛んだんです。イタリアのローマから入って、3カ月かけてスイス、フランス、スペイン、ポルトガル、オーストリア、ドイツを回りました。現地へ行くと、ネットで調べるだけじゃ出会えない情報とか、空気感とか、人の交流とか、お店の雰囲気とか、いろんなものに直接触れることができました。
中でも思い出に残ってるのは、最初の旅で出会った南イタリアのお菓子。ヨーロッパの中でも甘さは強め。それは中東が近いことも影響しています。オスマン帝国時代、トルコが世界の中心だった頃は砂糖がたくさん集まりました。その流れでイタリアの南の方も甘いお菓子が多い。シチリアを代表する「カッサータ」はコーヒーがないとキツイくらい、めちゃくちゃ甘い。日本だと店で出せない衝撃の甘さ( 笑)。でも向こうで食べるとおいしいから不思議です。
2度目の旅はフランスに長期滞在しました。秋にアンジェという土地でブドウ畑の収穫の仕事をして、冬にはクリスマスが有名なアルザスのお菓子屋さんで働きました。ただ、それまでお菓子屋で働いたことがなかったんで、働かせてくれる店が見つかるまでは結構大変でした。その後、自転車でクロアチアなど東南ヨーロッパを通ってウクライナへ。黒海を渡りジョージア、アゼルバイジャン、アルメニアを訪れました。その頃には冬になっていて、トルコは自転車を置いてほとんどヒッチハイクで回りました。
トルコで20代の男性一人暮らしの家に泊まらせてもらったとき、お菓子を作ってくれたんです。「イルミックヘルヴァス」といって、フライパンでバターと粗挽きの小麦粉を炒め、そこに沸かした牛乳と砂糖を混ぜて完成という素朴なものです。男性がレシピも見ずにマグカップだけで計量してさっと郷土菓子が作れるなんてすごいな、と。しかも、おいしい。日本人が何も
見ずに和菓子を作るなんて、なかなかできないですよね。
豊かな国ほど菓子は甘い
世界を巡って分かったのは、国が豊かじゃないとお菓子もないということ。お菓子は豊かさの象徴みたいなもので、平和なものなんです。フランスだと、この土地に行ったらこれ、あそこの土地だったらこれ、というふうにそれぞれ郷土菓子がありますね。でも中央アジアとか旧ソ連系の国に行くと、外交がなかったせいかお菓子の種類が少ない。
土地ごとのお菓子はなくて、その国全体で1種類とか。あるいは、ほとんどロシアのものだったり。時が止まっている感じがしました。また、アフリカのエチオピアでは、甘いお菓子を食べる習慣がありませんでした。「ボンボリーノ」というドーナツがありましたが、これには砂糖が入ってない。エチオピアでは砂糖がとても貴重で国が管理・販売しているみたいです。
愛される現地の素朴な味
旅先ではすごい量のお菓子を食べます。だけど、7割ぐらいはそんなに感動しないし、何ならおいしくない( 笑)。おいしいものを探すっていうよりも、現地の人がどういう気持ちで食べているかとか、これが土地の味なんだ、みたいなことを感じています。ただ、その中にとても感動する、おいしいお菓子が1割くらいあります。僕が作ろうと思うものは、やっぱり自分が感動できたもの。それをピックアップして、店に出しています。
味の頼りは舌の記憶のみなので、それが上書きされて全然違うものになってるかもしれませんが、理想に近いものを作り続けています。
話・写真:林 周作さん(はやし・しゅうさく)
1988年京都生まれ。エコール辻大阪フランス・イタリア料理課程を卒業。2012年6月から自転車でユーラシア大陸を横断。世界を旅しながら郷土菓子専門誌『THE PASTRY TIMES』を毎月発行。その土地の郷土菓子を調査し、その数は500種以上。訪れた国は48カ国。著書に『世界の郷土菓子』『THE PASTRYCOLLECTION PART2』など。東京・三軒茶屋に郷土菓子の専門店「JOURNEY」をオープン。一部ネット販売もあり。
www.kyodogashi-kenkyusha.com
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