見出し画像

山伏と森のつながり ~日本文化の原点に興味を持ち山伏になった坂本大三郎さんに、森との関わりについて話を聞いた。

山形県で山伏として生活をする坂本大三郎さんが、日本の文化と森について話をしてくれました。(エース2022年新春号特集「ある日、森のなか」より

ーー山伏になろうと思ったきっかけは?

 30歳になったときに山形県の羽黒山というところで、山伏の修行をしているっていう話を聞いて、単純に面白いと思って、好奇心で参加してみたんです。参加してみたら、非常に古めかしいことをやっているんだけれども、何かちょっと気になるというか、引っかかるところがあって。その頃東京に住んでいて、家に帰ってからいろいろ調べてみたら、山伏が芸術だとか芸能の発生や発展にすごく関わりがある人だったんです。
 自分がずっと知りたかったことに触れている人たちなんだなと思い、山形に通うようになりました。そのうち、山伏だけじゃなく、さまざまな山の文化が古いかたちで山形に残っていることが分かってきて、それを学ぶために山形に移住しました。

ーー山伏はどんな生活をしているんですか?

 僕の生活が山伏全員に当てはまるわけではないですけど、山から採ってきたものを、加工して売っていたり、山形の工房に飲食スペースをつけて、コーヒーを出したり。あとは、雑誌の仕事や、美術作家として芸術祭に参加したりもしています。
 今やっていることは、かつての山伏がやっていたことでもあるんです。山伏は里から山に人を連れていく役割も担っていました。山に人を連れていったときは、食事を用意するのも、宿を提供するのも、移動手段を確保するのも山伏の仕事でした。明治時代に山伏が禁止されてからは、こういった人たちが旅館経営者や食品加工業者、バス会社、旅行業者になったりとかたちを変えているんです。あと、医者も祖先が山伏だったりします。昔は病気になると山伏のところでお祓いをして、薬草をもらったりしていました。

ーー山や森に入って何をするんですか?

 僕は山より森の方が好きなんです。いわゆる登山っていうのは山頂を目指すじゃないですか。僕はそんなに登山が好きではないんです。山を登っているときに山頂より下の、人間が活動していたようなエリアにすごく心が躍るというか。いろいろな薬草や山菜があると、採りたいんですね。いろいろな動物もいるし。例えばクマがいれば、後を追いかけたりします。山形に移住してきてからは、森で人間が活動してきた伝統みたいな手仕事というか、生きる技術みたいなものを学んでいます。

ーー日本人にとって森ってどんな存在なんでしょう?

 非常に古い言葉みたいなんですけど、山形では山のことをモリといって、森山という山がたくさんあるんです。森山がどういうところなのかを調べていくと、死んだ人が宿る山なんですね。古い時代は森と山に区別がなかったみたいです。今でもお盆の時期に「モリ供養」というものが山形で行われています。祖先が森に帰ってきて、そこで宗教的な儀礼をするんですが、祖先が帰ってくる日は山に入っていいんですけど、他のときにその山に入ると死ぬっていわれちゃうんです。つまり聖地であり、禁足地なんですね。
 それから森に関心を持って日本を回ってみると、森山だったり、それに類するものが各地にありました。言葉が多少変わっていたりしますが、鹿児島ではモイ。沖縄の宮古島ではムイ。朝鮮半島にもモリという言葉があって、古い言葉では山を意味する言葉であり、墓を意味する場所でもありました。また、「鎮守の杜」というように神の鎮まる空間をさす言葉でもあります。森には重層的な意味があって、聖なるもの、亡くなった人、神などと関係していて、日本人にとって非常に重要なものだということが分かりました。

画像1

ーー山伏になって何か変わりましたか?

 どうですかね。やればやるほど分からない、みたいな感じで、何かをクリアするとまた次の変なものが出てくる。それがもう、楽しいのみです。

ーー森の一員として生きる山伏の面白さとは?

 心の中の“自由の根拠”みたいなものを、森の中で見つけることができると思います。人には知らないうちにいろいろな思想や情報が入ってきて、そういうものに影響されていると思うんです。そこからどういうふうに自由になるのか。森に残されている文化は非常に古く、森との関わり方も時代や地域によってそれぞれです。それを探っていくことによって、世の中に対する捉え方に幅が出てくる。
 森と関わることで、ある物事についても一つのイメージに固定されず少し距離を保てるようになるので、自分が行動するときの判断材料になります。日本人は、山や森との関係性の中で文化を作ってきた人たちだと思うので、今を生きていく中でも、祖先が残してくれた伝統みたいなものを傍らに持つことによって、より豊かに生きられるんじゃないかなって思います。


坂本大三郎さん(さかもと・だいざぶろう)
1975年千葉県生まれ。芸術や芸能の発生、民間信仰、生活技術に関心を持ち東北を拠点に山伏として活動している。春には山菜を採り、夏には山にこもり、秋には各地の祭りを訪ね、冬は雪に埋もれて暮らす。美術作家、イラストレーターの顔も持つ。著書に『山伏と僕』『山伏ノート』『山の神々』など。https://www.13ji.jp/daizaburosakamoto



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?