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「金継ぎ」は日本が誇る技!割れや傷を活かす金継ぎのように、自分という存在も大切に

金継ぎブームの火付け役である清川廣樹さんは、日本の技術を次の世代につなぐことが重要だと訴えます。

「金継ぎ」は茶の湯文化と共に発展してきました。500年ほど前に茶道が確立され、そこで使うお茶碗を漆を主材として修復するときに金を施すようになったといわれています。それまでは金は施していませんでした。ただ、漆による接着修理は1万年前に縄文人が始めています。
割れたものを漆の力を借りて貼り付ける、土の器を漆でコーティングするといったことは、すでにありました。金継ぎは漆の特性を活かし、日本で育まれた技法です。

清川さんの代表作ともいえる大胆なデザインがインパクト大の黒楽茶碗「稲妻」。海外からの人気も高い

身近だった漆の接着剤

古くから日本人は生活の中で一般的に「漆継ぎ」を行っていました。瀬戸物や木の器が壊れたとき、漆を使って接着してまた使うんです。昔は一つの器を長く使いますからね。直していたのはそのうちの家長だったり、近所を回る修理屋だったり。
昔はウルシの木が全国各地に生息していたんですよ。ウルシの木は山の低い斜面に育つので、ちょっと裏山に行って漆(ウルシの樹液)を取ってきて、おひつに残ったご飯粒と漆を混ぜて、今でいう「糊漆」にして接着剤にしていました。

デザイン金継ぎは邪道?

僕のような大胆なデザインの金継ぎは、これまでありませんでした。壊れていないところにも作品に合わせた模様をつける。今でも時々、京都の茶人が僕に物申すと訪ねて来られます。「こんなことまでしなくていい」「古典的な金継ぎでいい」と。だけど、次の時代の金継ぎをつくるためには、これが必要なんだって話をすると納得して帰っていかれます。

利休も織部も、当時は邪道中の邪道です。だけど数百年たって次のお茶の世界をつくったじゃないですか。

僕の仕事は大きな看板を守っていくことではないんですよ。次の時代へ技術をつないでいくために、金継ぎを通して日本が誇る伝統技術とその価値を発信していく。職人さんを養成する。だって、僕がご飯を食べられるようになったのも、先人たちの技術があったからですよね。その人たちへの恩返しに何ができるか。今ある材料がやがてなくなる、技術がなくなる、その想いさえなくなるとなったら、何も残りません。今できることをやって少しでも未来の角度を変えることで、100年、200年先が変わることがたくさんあると思います。

青が鮮やかな大きなフラワーベース(左)と出土した江戸時代の壺(右)欠けた口を金で埋め修復

自然素材の漆を学ぶ

金継ぎ教室を主宰していると、生徒さんは口を揃えて「漆ってすごい」「この技術をなくしてはいけない」と言います。特に外国の方は関心が高く、熱心に学んでいます。金継ぎは完成するまでに8週間かかりますが、漆はとても丈夫で素晴らしい自然素材ですから、漆を使う意味を感じてもらえると思います。接着剤だとか化学塗料だとか、近代になって便利なものが出てきました。一瞬それでもいいのかなと思いかけたときもありますが、そうではなくて使い分けすることを学ばなきゃと考えるようになりました。

自然素材のいいところ、化学素材の便利なところ。

僕は仕事柄分かっていたけれど、知らない人たちが多すぎるし、全く関心がない人もいっぱいいる。そうすると、次の世代の子どもたちに何も伝わっていかないですよね。

壊れたものを生活に戻す

壊れてしまったものを直そうとして使うのが、接着剤であろうが、本漆であろうが、漆が日本産であろうが中国産であろうが、構わないと思います。その使い分けを学ぶこと。

そして、何より壊れたものをもう一度生活に戻してあげる。これが一番大切なんです。

廃棄しないで直す。

そうすると、世界中のものづくりがひょっとしたら何百分の一に減るかもしれない。壊れたから次っていうふうに、この50年は来たけれど、そうじゃなくて、壊れても、もう一度直して使うことができる。リペア、修理というのはものすごく大事です。その重要さが分かりだすと、価値観が変わってきます。100円のものを買うより、大切に長く使いたいから1万円のものを買おうと意識が変わるんです。その次に、壊れたものをどうせ直すなら自然素材のものでやろうって考えるわけです。

リモージュのアンティークプレートを修復。壊れたところを継ぐだけでなく、元からある金彩を活かして模様をつけた

人も器も傷を負う

割れや傷を活かす金継ぎのように、自分という存在を大切にしてください。壊れたから、ひびが入ったから、欠けたからといって、そこで諦めるのではなくて、次の新しい自分を作る作業をしましょう。誰一人として傷なしで一生過ごす人はいませんよね。器だって僕たちだって、壊れること、命がなくなることを背負って世の中に出てくるわけですから。

話:清川 廣樹さん(きよかわ・ひろき)
漆芸修復師。漆芸舎代表取締役。NPO法人ROLE 代表理事。1957年大阪府生
まれ。50年にわたり、漆を用いた「漆芸」修復に携わる。その対象は建築、仏像、陶磁器、漆器、アンティーク家具、古美術品など。京都と東京で金継ぎ教室を主宰。企業活動やNPO活動を通じて、後継者づくりや文化保持にも意欲的に取り組む。BBC、NHK Worldなどメディアに多数出演、イタリアでの講演など海外からも注目を集める。https://www.heiando-kyoto.com/

写真=松嶋愛


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