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自分の声を磨くには ~「いいな」と思える声こそが、本物の声。どうしたら手に入れられるのだろう。

特別なボイストレーニングをしなくても、本物の声が手にはいる!声の研究者・山﨑広子さんによる実践編。エース2022年春号・特集「わたしの声って。」より

ステップ1
録音して 自分の声を知る

 あなたは自分がどんな声で話しているのか、他の人にどう聞こえているのか知っていますか。自分の声を知るには、ICレコーダーでもスマホでもなんでもよいので録音して聞いてください。仕事のプレゼン、家族との会話、恋人と話すときなど、さまざまな場面で録音してみましょう。録音時間は30
分くらいでOKです。
 「こんな声じゃない、もう聞きたくない」とたいていの人はそう思うのですが、鏡を見ないと身なりをチェックできないように、自分の声も録音した声を聞かないと客観的にチェックできません。なぜならあなたが普段から聞いている自分の声は、骨道音と気導音が混ざったもの。録音した声が、あなたが人に聞かせている声なのです。

ステップ2
本物の声を見つけてみよう

 声には、体格、体質、声帯の長さや厚さ、体調、精神状態などあなたの全てが表れています。これが現在のあなたの真実です。「作ってる声だな」「なんか棒読みだな」「つまらなそう」など、声から聞き取れてしまう自分に嫌になることもあると思います。でも、その中に時折「いいかも」と思える声があるはずです。それは作り声ではなく、妙にテンションが高いわけでもなく、嫌悪を感じる声よりも少し低めの声であることが多いでしょう。それがあなたを健康で安全な状態に保つ生体の恒常性にかなった、本物の声です。私はその本物の声を「オーセンティック・ヴォイス」と呼んでいます。
 いいと思える声が見つからない場合は、普段の声より少し低い声を出してみる。そのとき顎を軽く引いて(引きすぎると余計な力が入ってしまいす)、いつもよりゆっくり呼吸をして話してみてください。

ステップ3
「いいな」と思える声が見つかったら

 「いいな」と思える声を出したときのシチュエーションや自分の状態を思い出して、その声を耳に記憶させてください。何度も聞いて、その声が簡単に思い出せるようになるまで覚え込ませるのです。それを頭で再現しながら改めて録音してみてください。最初のうちはかえって作り声になってしまってうまくいかないかもしれませんが、何度も繰り返すと、いいなと思える声が録音できるようになってきます。
 声を決めるのは喉ではなく、耳=聴覚=脳です。いいと思える声は、自分を肯定できる声であり、本物の声です。これを徹底的に脳に定着させることが大事です。

ステップ4
伝わらない声から卒業する

 今まで自分が聞いてきた声、出してきた声、そのときの心身の状態など、全ての積み重なりが、今の自分の声に影響を及ぼしています。社会的な圧力
や家庭環境などによって、本物の声が出せず、本来あるべき状態から離れていると、伝えたいのに伝わらないということが起こります。人はそれぞれの個性と生き方を反映した声を伸び伸びと出し、話すことを楽しむのが本来の姿ではないでしょうか。
 単純に言えば、声に対する意識が高い社会で、個性豊かな本物の声を聞いて育ち、自分なりの声で伝えることをしてきた人は、自然と本物の声で話しているものです。しかし、日本では、そういう人が少ない上に、声には無頓着です。社会に出てから急に、人に分かりやすく話しなさい、要点を整理して発表しなさいと指摘され、話し方教室みたいなものを受講する方もいると思いますが、声そのものが置き去りなんです。マニュアルに沿った話し方をしなさいと、個性を前面に出す話し方を否定する風潮すらあります。学生だと友人同士でみんな同じ話し方、同じ声のグループなんて多いですよね。海外の多くの国のように、いかに自分自身を伝えるか、その力が試されるようになると声への意識も高くなると思います。

ステップ5
本物の声は楽に出せる声とは違う

 出しやすい声は、あくまで慣れているから楽なのであって、心身共に一番
よい状態で出される生体の恒常性にかなった声とは違います。例えば、猫背で胸を狭くして丸めると呼吸筋の動きが妨げられて呼吸が浅くなります。そ
うすると、全身に酸素が効率よく行き渡らなくなり、疲れやすかったり、だるくなったりします。しかし、猫背に慣れてしまうとその形の方が楽になってしまうものです。たいていの日本人は話すときに首を前に突き出すお猿さん型です。これでは喉頭に緊張がかかり、声道が狭くなるため声は浅く絞ったようになってしまいます。
 大切なことは、首、顎、肩に力を入れず、呼吸をゆっくり整えることです。息を吸うとき肩が上がらないように注意して、お腹と横腹が緩やかに膨らむイメージです。

実践編 電話で自然な発声をする

電話をかけるとき
 かける前に30秒くらいゆったり呼吸をします。まず、鼻から長く吐いて、同じく鼻から軽く吸って、長く吐く。これを数回繰り返します。そうしたら、頭の中で第一声を言ってから電話をかけましょう。電話は聞き取りにくいものなので、相手が出たら急いで話さず、間が空きすぎるくらいで丁度よいです。オーセンティック・ヴォイスを手に入れた人でも、電話だと、特に女性は喉を締め付けた高い声を出しがちです。
 落ち着きがあって明るい響きの声を心掛けましょう。それには、話す瞬間に少し目を見開くようにして眉を上げること。眉を上げるだけで、音色は明るくなります。男性は、くぐもった声になりがちで、特に身長の高い人は要注意です。声を張り上げずに芯のある声にするには、やはり眉を少し上げます。顔の上部の共鳴腔がわずかに広がると高い周波数が増幅し、声にメリハリが出て聞こえやすくなります。

電話がかかってきたとき
 かかってきた電話は呼吸を整える暇がないので、肩の力を抜いて顎をちょっと引いて出ましょう。そうすれば、喉を締め付けた高い声にはなりません。そして第一声ですぐに眉を上げましょう。理由は電話をかけるときと同じです。喉を締め付けた高い声は、相手の喉も締め付け、不快な緊張感を与えてしまいます。営業用の作り声は、わざとらしい印象を与えます。10秒も話せば、この人は信頼できそうか、相手は無意識のうちにイメージを作り上げてしまいます。それだけに、電話はあなたの魅力を好きなように割り増しして届けることもできるのです。

解説:
山﨑広子
さん(やまざき・ひろこ) 
一般社団法人「声・脳・教育研究所」代表。音が心身に与える影響を音響心理学、認知心理学をベースに研究。特に声と心身のフィードバックに着目、3万例以上を分析。著書に『8割の人は自分の声が嫌い』『声のサイエンス』『心を動かす「声」になる』ほか。
https://www.yamazakihiroko.com/

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