ひなこ

美味しいものと空想がすき。

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【エッセイ】そっとレモンをおいてくる

 高校生の頃、現国の時間に梶井基次郎という小説家が書いた『檸檬』という作品を習った。この作品を初めて読んだ時、こんなに面白い物語を書ける人がいるのかと感動したものである。主人公である「私」の心は、「えたいの知れない不吉な塊」に終始圧えつけられていた。元気だった頃の「私」は丸善で色々な商品をみることが好きだったのだが、この頃はどうにも足が遠のいている。好きな事といえば、みすぼらしい裏通りを眺めたり、おはじきをなめることぐらいであった。そのように欝屈としている「私」は、偶然通りか

    • 掌編小説 うすのろまぬけ

       あるところに「うすのろまぬけ」とあだ名の付けられた一人の男がいました。この人は生まれつき知能が低かったので学校の勉強についていくことも大変で母親は大層彼のことを心配し、また愛しておりましたのでこの子がそのことで気持ちを煩わせるようなことがないようにとせめて家事や身の回りのことは一通りできるようにと大切に育てました。  男は大きくなると学校を卒業し活版所で活字拾いの仕事を始めました。そこでも男は皆に何とか遅れを取らないようにと頑張ったのですがやはりどうしても作業のペースは遅

      • 掌編小説 綿毛の恋

         芽が出て膨らんで花が咲いたらジャンケンポン!子供がまだ小さいので手遊びをしてあげるとキャッキャと喜ぶ。  子供が初めて口にした言葉は「はな」だった。庭に咲いているユリの花を指さして確かにこの子ははなと口にしたのだ。はな、はな、はなだねぇ。ひなこ、はなきれいだねぇ。ひなこは夜眠るときに指をくわえて眠る。ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、そんなに自分の指が美味しいのだろうか。  中学生になると一丁前に好きな男の子がいるようだった。もう指はくわえなくなったけどベッドの中に潜って好きな男

        • 掌編小説 金のぐるぐる

           あるところに二人の男の兄弟がいました。上の子は絵に描いたような優等生、親の手伝いも進んでやるようないい子。下の子はグータラで怠け者。宿題もやらず女の子のスカートめくりばかりして先生から叱られるようなそんな子供でした。両親はこのままでは下の子の将来が心配だとばかりにある日森の向こうにいるお祖母さんのお見舞いに行かせることにしました。お祖母さん。旦那をなくして一人で暮らしているお祖母さん。その森の周辺に住む仲間は皆彼女のことを知っていて折を見ては差し入れやらお手伝いを買って出る

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        【エッセイ】そっとレモンをおいてくる

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          掌編小説 強くてニューゲーム

           誕生日に友人から地球儀のミニチュアをプレゼントされた。透明なボックスに入ったそれは表面に「SAVE THE EARTH」と黄色のペイントで書かれている。環境問題を訴えたいのだろうか。インテリアを見るたびにいちいちそんなことを考えなくてはならないなんて煩わしいことこの上ないななどと考えていたら、うとうとと眠ってしまった。  夢の中でとても狭い空間に人々と共に暮らしていた。どうやら地球はいわゆる第三次世界大戦に突入したらしく人々が生き残りをかけてシェルターでの暮らしを余儀なく

          掌編小説 強くてニューゲーム

          掌編小説 立つ鳥跡を濁さずとあいつは言った

          「旅人のさむいこころを だれが抱いてあげるの 誰が夢をかなえてくれる」  人生で何度見たか数え切れない『カリオストロの城』を見終わって、ひなこはほうとため息をついた。最初のカーチェイスから始まって最後の銭形警部の名言に至るまで本当に素晴らしい出来の映画である。でも私がクラリスだったらルパンではなくその相棒次元大介の方に恋をしたと思う。次元大介というキャラクターはやたら義理堅いクールなガンマンなのだが、女嫌いを公言していてあまり色恋沙汰では面にしゃしゃり出てこない。でもルパン

          掌編小説 立つ鳥跡を濁さずとあいつは言った

          エッセイ ワンス・アポン・ア・タイム

           本当の意味で元気でいられたのが小学3年生までである私はその人生の大半を病気の、鬱々とした空気の中で過ごしてきた。元気な期間が本当に物心つく前ぐらいまでである。小3まで愛知県は春日井市に住んでいた。校区の一番外れに住んでいたので子供の足で40分近くはかかる社宅に住んでいた。40分もかかるとなると夏は日射病になったこともあったし、通学班の男の子が自転車とぶつかって骨折してしまったなんていう事故まであった。Nくん元気かなぁ。家に遊びに行くとプラレールがあって楽しかったのを思い出す

          エッセイ ワンス・アポン・ア・タイム

          掌編小説 ジゴロ

           「ペッパー警部邪魔をしないでぇペッパー警部私達これからいいところぉ」  懐メロをこよなく愛する一風変わった後輩の女の子がピンク・レディーの『ペッパー警部』を熱唱している。阿久悠は私も好きだ。彼はインタビューの中でこう述べているのだ。3分の中に人生を込めるのだと。昨今のやたら長くて何を言ってるのかよく分からない歌を作る作曲家にきかせてやりたい言葉である。こんなことを思う私ももはや老害、若者から見れば立派な年寄なのだ。津浦智子はウーロン茶を一口飲むとその持ち前の綺麗な声で十八

          掌編小説 ジゴロ

          【短編小説】そういう人

          「あれっ、ない」 「何が?」 「カバンにつけていたチャームがないのよ」  美里はそう言いながら辺りをキョロキョロと見渡した。「チャーム?」と私が聞き返すと彼女は焦った口調でこう返した。 「そう。うさぎのチャームが見当たらなくて」  私がどうにもそれを思い描けずにいると、彼女はその形状を矢継ぎ早に説明してきた。 「なんていえばいいのかな。白くてふわふわっとしていて、手のひらに収まるぐらいの大きさなんだけど」  私が記憶を手繰り寄せると、確かにそのようなマスコットが

          【短編小説】そういう人

          花のような人(短編小説)

           りかとの出会いをどのように表現したら良いだろう。彼女は我が桐谷第一中学2年A組に、4月ももう半ばという中途半端な時期に訪れた転校生だった。  担任教師から教室の中に招き入れられた少女に、私の目は釘付けになった。彼女がものすごい美人だったからである。長く艶のある髪を後ろで一つに束ね、顔はバービー人形のように小さく、瞳は黒々としてしっかりと前を見据えている。いつもならどよめきとひやかしの声をあげそうな男子たちも、皆水を打ったようにシンと静まり返っている。それだけ彼女の容姿が並

          花のような人(短編小説)

          掌編小説 純情味噌汁

           なずなは悩んでいた。今日は母さんの帰りが仕事で遅い。スーパーでお弁当でも買って食べてと頼まれたから、部活の帰りにスーパーに寄ったのだけど、お豆腐なんかを見て回るにつれて「お味噌汁くらい自分で作れないかな」と思ったのだ。そうと決まればお味噌汁に入れる具材を揃える。お豆腐でしょ、ワカメでしょ、油揚げでしょ、顆粒だしとお味噌はうちにあったから省略。お弁当は値引きされていた幕の内弁当を買った。  「榎本じゃん」声のする方を振り向くとクラスの山田くんが買い物かごを下げて立っていた。

          掌編小説 純情味噌汁

          掌編小説 コンビニ天使

           はぁー、裕也は盛大なため息をついた。というのも入社3年目にして手掛けたプロジェクトが特大の失敗に終わったからである。上司や同僚から期待されて臨んだだけあって、裕也は入念な準備と計画を怠らなかった。それなのにー。裕也はぎりっと歯ぎしりするとこんな日は酒でも飲まないとやってられないとばかりにコンビニに寄るとアサヒスーパードライを3本、乾き物を少々、ポテトチップス、冷凍のたこ焼き、ポテトなんかをかごに詰め込むとレジの店員に差し出した。「会計お願いします」「はい」大学生ぐらいの女の

          掌編小説 コンビニ天使

          時夫 二 (短編小説)全七回

           予想通りというか、父親が船乗りにのくだりは嘘を書き並べておいたので誰の心にも響かなかったのだろう。クラスメート達からまばらの拍手を受け取った航は、それでも笑いものにされるよりはまだましだと無事着席したのだった。男子の発表が終われば、次は女子である。日葵ちゃんは苗字が町田なので、かなり待たないと発表をきくことができない。航は一仕事終えた人のような心持だった。だからクラスメートたちの発表を、どこか遠くの出来事のように楽しみながらきくことができたのである。中にはきいているこちらが

          時夫 二 (短編小説)全七回

          時夫 一 (短編小説)全七回

          前に一度投稿したのですが再度投稿することにしました。  名前の由来についてか。井上航(わたる)は学校の宿題を前に頭を悩ませていた。今日の国語の時間に宿題がでた。それは自分の名前についての由来を書いてきなさいというものだった。学校の授業ではちょうど名前にまつわる物語を習ったところだった。せっかくだから、自分の名前がどのようにつけられたのかそれぞれ知っておこうと先生は考えたのだ。分からない場合はお父さんお母さんにきいてきてもよいからと。明日の国語の時間に発表してもらうと先生が伝

          時夫 一 (短編小説)全七回

          掌編小説 麻雀酔夢譚

          「きたーみてこれすごくない?」 「やっぱ陽翔がいると調子いいなぁ俺!」 「桜井さんこれで満足ですか?」 「いや、すまんな出来れば4人でと思って君を呼んだんだが」 「俺は運ゲーとことん弱いんですよ!」 「よーしもう半ちゃんやろうぜ!」 「よっしゃ。いいな 次はデカピンにしようぜ」 「聞けよぉ」 「藤堂、桑野あまりいじめてやるな」 「いや俺はほんとにもうここまで。この後予定あるし。これ吸ったら帰る」  陽翔がそう言って煙草をくわえようとしたとき、急に目眩が襲ってくるのを感じた。

          掌編小説 麻雀酔夢譚

          掌編小説 しろくま騒動記

           修学旅行で寄った天文館はむじゃきで食べたしろくまの味が未だに忘れられない。ミルク味のパウダースノーみたいなかき氷に色とりどりの果物やお菓子が添えられた鹿児島名物しろくま。お店の2階に通されて皆でワイワイ言いながら食べた思い出の味。未華子はじゅるりとツバを飲み込むと帰りにコンビニでカップのしろくまを買うことに決めたのだった。  そんな穏やかな午後を過ごしていた未華子たちの預かり知らないところ、遠い遠い北極という地では観測隊の隊員たちがしろくまの親子を仔細に観察していた。母ク

          掌編小説 しろくま騒動記