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三年働きました

2021年4月にサラリーマンになってから、ちょうど3年が経ちます。朝から晩まで図書館にいた大学時代とは打って変わって、当たり前ですが社会との接点を持ちながら日々を過ごしています。

生活は一変しましたが、相変わらず「良き社会とは?」「良き社会を実現するには?」「それは資本主義社会で実現可能なのか?」みたいな問いに向き合いながら生きているのですが、3年働いてみて、「人々の機会を広げる」ことを超えて、「人々の機会をもっと近くに引き寄せる」ことでビジネスを通じて世の中をもっと良く出来るのでは?と少し1年目の時と比べて考えが変わったので、頭の整理のつもりで書いてみようと思います。

良き社会、それは一人一人の成員が自己実現に向けて希望を持ち、それを目指し続けられる社会なのではないかと考えています。自己実現は必ずしも経済的な成長を伴う必要はなく、成員全員が生きたい姿に近づけるような人生を送れることが良き社会であると考えます。
そして僕は、最もそれを行うことが難しい人々でも、自己実現を希求し続けることが出来る社会の実現こそ、目指すべきものであると思っています。

では、もっとも自己実現の希求が難しいとされる人々はどのようなひとびとなのか。それは個人の能力や政治的/経済的地位に最も恵まれていない人々(Rawlsの言葉を借りるとthe least advantaged)ということになると思います。

これまでビジネスにおいて、Minority×Poorの社会セグメントの包摂は「機会を広げる」役割は十分に果たしてきたように思います。Googleは情報の民主化を果たしましたし、LinkedInやIndeedも求職者レジュメと企業求人票のマッチングにより、ジョブハンティングの機会を広げてきました。

しかし、「機会を近づける」という面についてはかなり限定的な役割に閉じているように思います。例えば、地方に住む学生は海外留学の機会があることを知ることが出来るようになりましたが、多くの人たちにとってはお金の面や語学の面から、まだまだ遠い機会です。ホームレスの方々も求職活動を行うことはできますが、住所不定等の身元確認リスクにより就職が難しいのが実情のようです。

このような構造的な問題自体は以前から理解していましたが、数年前までそこに対してビジネスでアプローチすることは半ば諦めていました。なので、寄付という自発的再分配を行うことで世の中を良くしようと考えていました。

しかし、社会人になってからFintechサービスに興味を持ち、中でも「与信」というテーマに関心を持ち始めてから少しずつ考えが変わり始めています。もしかすると、the least advantagedな人々の機会をもっともっと近づけることが出来るようになるのではないか、ひいては世の中のすべての人々の機会をもっと近くに持ってこれるのではないかと思うようになりました。

例えば、GMSさんはアジアを中心にこれまで自分の車を保有出来なかった人々に対して、独自のハードウェアを活用することで車のローンを組めるようにする会社です。IOTデバイスを用いて取得する車両データと金融機関と連携して取得する支払い状況を元に与信を行うことで個人のモビリティファイナンス機会を創出しています。

昨年、東南アジアを中心にFintechサービスを見に行くべく6カ国を回りました。そこで見たのはGrabやGojekといったライドシェアが人々の生活を支えている実態でした。正規の職に就けない人々が運転手をやりながらその日暮らしをしているのです。また、ジャカルタで元GMSの社員さんの話を聞くことが出来たのですが、ライドシェアドライバーたちは車やバイクといった生産手段(means of production)を手に入れることが出来ないため、資本家に多額のレンタル料を払っており、それゆえにその日暮らしの生活をせざるを得ないのだと教えて頂きました。

国内においても、与信をすることで人々の機会を近づけている事例はたくさんあります。例えば、スカイセブンモバイルさんは過去の滞納等によってブラックリストに登録され、携帯の契約が出来なくなった方々向けにキャリア回線を提供する会社です。

スマートフォンがないと生活も出来なければ仕事も探せません。過去の滞納者という新自由主義社会において排除されてきた人々に与信をすることで社会に包摂しようとする素晴らしい事業だと思っています。

こんなふうに、政治的な声も弱ければ、経済的地位も低い人々でさえも、自己実現の機会を近づけることが出来る。そんなパワーが与信にはあるのではないかと感じています。

様々なデータやテクノロジーを活用して、人々の可能性に正しく社会がBetすることが出来るように、広い機会を見せるだけではなくて、機会を掴み取る背中を押してあげられるように、そんなことがビジネスを通じてやれるといいなと思っています。

社内に「機会はもっと広い」という標語があります。とてもいい言葉だなと思います。これまでやってきた事が詰まっている言葉です。けれども同時に「機会はもっと近い」も並行して実現していきたいなと、そんなことを思いながら社会人4年目に突入します。

世の中を少しでもよく出来る様に、仮説を確かめながらやっていきます

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