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【Vol.11】物語を伝えたチラシの破壊力

前回、応援される工務店になるためには【物語】が必要だ、というお話をしました。

今回はその実例として、《街の工務店さんが物語を伝えたチラシ》をご紹介します。


■街の工務店さんが物語を伝えたチラシ


主人公は、関西圏のBホームさん。

年間数棟の注文建築を社長お一人で手がけている、小さな小さな工務店さんです。

これまでは紹介受注がほとんどで、いわゆる集客活動を行なったことがない。

そんなBホームさんが【初めて】住宅の完成見学会を開催することになりました。

集客用のチラシを作るのも初めてなので

・どんなチラシにすればいいのか?
・何を書けばいいのか?
・誰を呼べばいいのか?
・どれぐらい来てくれればいいのか?
・紙は?印刷方法は?配布方法は?コストは?

などなど、分からないことだらけ。

四苦八苦しながらの初めてのチラシづくりは連日深夜に及び、完成したのは新聞折込日の当日でした。


そんな苦労の末に完成したチラシがこちら。

この工務店さんの血と涙の結晶なのでボカシを入れてますが、それでも分かるぐらい【手作り感満載】です。

・wordで作ったほぼ文字のレイアウト
・きれいな写真も、目を引くキャッチコピーも無い
・カラーですら無い
・地図もまさかの社長の手描き

などなど、お世辞にもキレイなチラシとは言えません。

さらに配布枚数もかなり節約。
新聞折込は周辺3,600世帯のみ。あとは周辺へのポスティング600件。情報誌に同封200件。合計でたったの【4,400枚】です。

10,000部で1組でも反響があれば上出来と言われる住宅業界ですから、期待値としては反響がゼロで当たり前ということになります。



ところが蓋を開けてみると、なんと来場者数は【24組】。

1/10,000どころか、《1/183枚》という、なかなかスゴイ反応率だったのです。


社長一人だけでやっている工務店さんが自分で作った、お世辞にもキレイとは言えないチラシがなぜこんなにもウケたのか?

それは、チラシの中でこの家づくりの【物語】を伝えたからです。

いったいどんな物語を伝えたのでしょうか?


■紆余曲折の家づくり


この住宅のお施主さんであるN様は当時34歳。
BホームのOB施主(オーナー)の弟さんなのですが、不慮の交通事故で突然車椅子での生活になられました。

今までの日常から一瞬で世界が変わり、当初はかなり落ち込まれたそうです。しかし、元来前向きなN様は「自力で社会復帰する!」という決意の元、介護に頼らない生活を決意されました。

ここで大きな問題になったのが【住宅】でした。

当時お住まいだったのは、わずか3年前に購入した《建売住宅》。
当然車椅子での生活に対応した間取りじゃないので、生活どころか、玄関ポーチに上がることすらできません。

それならバリアフリーリフォームで…と考えたものの、新築並みの費用がかかるという理由で断念。

そこで、お兄さんのご近所で土地を探し、一から新築住宅を建てることを決意されました。

新築するにあたり、まだお若いN様は3つの要望をお持ちでした。

  1. 介護を受けず、できるだけ自力でリハビリしたい。

  2. 車庫から家の中まで、車椅子で自由に移動したい。

  3. 今後の生活も大事だから、予算はしっかり守りたい。

これらの夢を叶えるべく、Bホームさんと設計士さんはプランニングを始めたものの、車椅子を使いながらも介護に頼らず「自立」して暮らしていくためには、型通りのバリアフリー住宅では上手くいかないことが分かってきました。

例えば

  • 床の段差をなくすだけでは、自立に役立つ家にならない。

  • 同じ手すりでも、人によって縦がいいのか横がいいのか意見が分かれる。

  • 最初から過保護の設計は、居心地が良すぎて動けなくなってしまう。

などなど……。

これらの問題点を解決すべく、Bホームの社長は何度も何度も《リハビリセンター》を訪れ、介護の専門家からアドバイスをもらいながら、N様の「自立」を助ける家づくりにチャレンジしていきました。

そんな苦労を重ねてようやく完成したのが、今回の見学会の舞台となる住宅だったのです。



■価格以上の価値


今回のチラシ。

実は、上記の《物語》を書いただけ。

パソコンでびっちり文字を打ちこんだだけの手づくりチラシがこれほどヒットしたのは、《建物の仕様・スペック》を訴えたのではなく、《その家の裏側にある【物語】を伝え、それに共感・感動して頂けたから》なのです。


この連載で何度もお伝えしていますが、いまや【商品】だけで他社と差別化するのは至難の業です。

だからこそ【商品以外の価値】を伝える必要がある。

皆さんもこの【価値】を伝えるのにいろいろ試行錯誤をされてると思いますが、今回のように【物語を伝える】ことで、差別化は簡単にできてしまいます。

というか、差別化を通り越して【独自化】できます。



家づくりの裏側には必ず物語があります。
それは

  • 社長の夢かもしれない

  • お客様から聞いた悩み事を解決することかもしれない

  • お客様の願いを叶えるチャレンジかもしれない。

そのプロセスこそが、その家にしかない物語であり、伝えるべきもう一つの商品であり、【価格以上の価値】でもあるのです。


■後日談


こうして初めての見学会を成功させたBホームさんから、こんな後日談をお聞きしました。

「この住宅の建築中、車椅子のN様はなかなか現場を見に来る事ができませんでした。

そこで、現場近くにあるお兄さんの家の2階から、建築の様子をよく見られていました。

お兄さんが弟さんをおんぶして階段を上がるんですが、その時弟さんがボロボロ泣き出したそうです。

『兄貴にこんな風に背負ってもらえるのは何年ぶりだろう』と。

聞けば、最近はそれほど兄弟仲が良くなかったらしいんです。
でもこの交通事故をきっかけに、兄弟の絆が深まったとのこと。

その話を聞いて私も涙ぐんでしまいました。」


住宅業界は、家という商品を作ることが《仕事ではありません》

様々な人生を歩んで来たお施主さんがそれぞれ持つ想いや願いを、【建築】という手段を使ってサポートすること。

これが、街の工務店さんが普段やっている【本当の仕事】です。

そのサポートの過程には、同じものがふたつとない《家づくり物語》があり、それはあなたの姿勢や努力に価値を感じてくれるお客様を惹き寄せる【唯一無二の武器】となります。


住宅の差別化に翻弄される前に、まずは御社とお施主様の【物語】を伝えてみませんか?

その物語が役に立つお客様が必ずいるはずです。


※もちろんプライバシーへの配慮はマスト条件です。
お施主様の生活に支障が出そうな場合は、工務店さん側の物語を伝えてくださいね。
このチラシのお施主様は「私の体験が他の方の役に立つなら」と、快く承諾していただけたそうです。




★今日のまとめ

【商品による差別化】よりも、【物語による独自化】。




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