連載小説『ヰタ・セクスアリス・セーネム』三章 キャバ嬢(ニ)
そのとき、部屋のドアが開いて和美がふたり分のコーヒーを運んできた。「駅前のスーパー行くけど、なんかほしいもんある?」
順平があごで西本を示して「こいつに使いたいから、拷問用品買うてきてくれ」と応じた。
「わかった、痛そうなやつ見つけてくるから。けんちゃん、帰らんと待っとかなあかんで」と和美も乗ってくる。西本が自分の肩を抱くようにして応じた「おお、こわ。拷問夫婦やぁ」
和美が出かけたので、声を落とす必要もない二人はさっそく本題に入った。
「知り合いから聞いた話やけどな」と西本が話し出す。「いま、昼キャバが盛況らしいで。ジイサン連中で満員で、まるで元気な養老院状態やっちゅうことや」と、さっき和美がいれてきたコーヒーを飲みながら続けた。
「へぇ、知らんかった。何がそんなにええねんやろ」と順平が少し乗ってきて言う。
「そら、ぴちぴちのわかい娘がわんさかいてるからに決まってるやろ」
若い娘と聞いて、順平は二三十台の女性を想像して確認した。西本が続ける。
「二十歳前半が大半や。十八の娘もいるでぇ」
順平は驚いて言った。「そんなわかい娘がいるてか、知らんかった。オレの孫ぐらいの歳やんか。子も孫もオレにはおらんけど」
なぜ、なんのためにそんなにわかい娘がキャバクラで働くのか。順平にはわからない。なぜシルバーが昼間から通うのか。
他にも知らないことだらけだが、あとで掘り下げよう。
「そら究極はマネーやろ」と、西本が解説をはじめた。「わかい娘こそもの要りなんや。親のスネかじられるんやったら別やけど、大学生の収入言うたら、小遣いだけではしれてるわな。それ以上ほしかったら自分で稼がなあかん。
「会社に勤めても、非正規社員の場合は給料安うて、おまけに身分も不安定や。やれ服や、バッグや、化粧品や、女子会や、USJ行くや言い出したら。そらぁ、とても足りたもんやない。
「そこで考えてアルバイト探すわな。なかでも効率のええのがキャバ嬢になることや。いっそのこと、専業にしよと思う娘もおるわな。人それぞれいうこっちゃ!」
なるほどと順平は思うけど、世の中の娘が全員キャバ嬢になるわけでもない。まあ、後で掘り下げよう。シルバーの方はどういう事情なんや、と順平は話の続きをうながした。
「ジルバーはな、行くとこ無うて困ってるんや。家にくすぶってたら家族に鬱陶しがられるやろ。それでスーパーとか図書館とか暇つぶしに行くやろけど。それも、そのうち飽きておもろないやん。
「けどな、人によるけど年金とか入ってきて案外年寄りはヒマとカネはあんねん。お前もオレもまあその口やろ。
「あとな、息子は仕事や嫁子供で精一杯。娘は母親の方になびく。孫も子どものうちこそ可愛いが、ええ歳になったら年寄りに寄り付きもせんようになる。」西本の長広舌が続いたあと、次の一言でまとめた。
「それで、キャバ嬢という癒やしが必要になるんや」
こちらもなるほどと思う部分はあるが、ジイさんが全員キャバクラに行くわけでもない。これも後で掘り下げよう、と順平は思った。
おかのくら さんの画像をお借りしました。
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