若葉の季節の雨はヤサシイ

ありがとう
　　ありがとう　
　　　　ありがとう
さようなら

今年も優しい季節はやってきた

「さよならの数だけ愛を知る」
お別れの会で
恩師がくれた言葉
どこかの
映画監督さんの受け入りらしい
知らない人の言葉も
この時期はやけに心に刺さるんだ

守られてきた私
両親に
先生に友達に

そっと離された手のぬくもりを
自分の両手で包み込む
このぬくもりは愛なのだろうか

窓のそとで
風が声をあげる
桜の蕾は膨らみを
優しい雨がしっとり濡らす
そっとそっと

私は中学３年間で
何を得たのかな
少しは成長したのかな

答辞を読み上げる生徒会長の声が
上ずった瞬間に
女子が一斉にすすり泣いた

１年で根を張り
２年で葉を広げ
３年で花を咲かせる

花道

これが学年テーマだった

お父さんお母さん
僕たちはこれからも
いっぱい迷惑をかけると思います
それでも
中学校3年間で咲かせた花を
さらに
大きく
咲き誇らせることをここに誓います

生徒会長がこんな誓いの言葉を
答辞で読んだっけ

僕たち

その表現に
私も入っているのだろうか

生徒会長さん
私には無理だよ

この3年間
ただ
ただ通うことだけで精一杯だった
将来に夢を描くことは
とうとうできなかった
私の花の蕾は硬いまま

未来にも
私の花はこのままかもしれない

「正解」

学年合宿は
隣の子は泣いて泣いて
声は歌にならなかった
泣かない私は冷たいのかな

「正解」

私の正解はあるのだろうか
いつか答えを
見つけることができるだろうか
窓の外は雨
若葉を濡らして
ほこりを洗い流している
ヤサシクヤサシク

正解の歌詞を噛みしめる

制限時間はあなたのこれからの人生
解答用紙はあなたのこれからの人生
答え合わせのときに私はもういない
だから採点基準は
あなたのこれからの人生
「よーい、はじめ」

私の人生もここから始まるかな
ハジマリ
私の始まりはいつも雨なんだ
でも
ヤサシイ雨なんだ
雨粒が若葉の埃を流れ落としていく
そっと
そっと

私の新しい人生

よーい、はじめ