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「#24 百円ショップの募金箱に千円」


 考えごとをしながら自転車を駐輪場から出したせいで、なんとそのまま自転車を押して目的のカフェまで歩いて行ってしまったことがある。
 店に到着して自転車の鍵をかけたところで「うわ、自転車乗るの忘れてた」と我に返ったのだ。

 スマホで時間を確認すると見事に15分ほど遅刻していて、ずっと自転車を押しながら歩いたせいで汗だくにもなっていた。
 急いで店に入り、待ち合わせしていた友人に事の顛末を話したのだが「そんな事ある !?」とあまり信じてもらえなかった。
 昔から考えごとに集中すると人の話を全然聞いてなかったり、それ以外のことをシャットダウンしてしまう癖がある。だからといって機能が完全に停止してしまうわけではなく、目的地に向かったり、会話の相槌などはオート機能が作動して最低限こなしている。

 さらには人の話を聞かず頭の中で一人考えている時に、僕と会話が成立してると思って話している友人へ、突然こちらから「なぁ、どう思う?」とか、「絶対おかしいよな?」と喋りかけてしまうこともある。
 なんだか頭の中で考えている事柄に対して、いくつもの見解や考察を繰り返す内にそれが自分一人の中でおこなわれている意識や感覚がなくなって、思わず口に出してしまうのであろうか。喋りかけられた方も「急に何やねんっ!」とか、「なんの話やねん!」とキレのいいツッコミをオート機能で発動してしまう事態になる。

 どういった考えごとをしているのかと言えば、日頃から抱えている悩みやストレスなど大きな問題もあるが、ほとんどがその時に目に付いた些細な違和感であることが多い。
 例えばSuicaのチャージをしようと駅の改札へ行くと、券売機前のちょっとした荷物や財布を置けるスペースに、何故かハーフベーコンの空パックが捨てられていて、最初はお金を投入しながら「こんなところにゴミを捨てていくなよ、非常識な奴やなぁ」と思ったのだが、その後に「いやそれよりどのタイミングでベーコン食ってんねん」思い直し、またすぐに「そんなことよりベーコンて生で食べるもんちゃうやろ」と、どんどん気になることが増えていってしまうのだ。
 そこから、「でもたまにウィンナーを生で食うやつおるよな」となり、ベーコンを生で食べれるのかをスマホで調べたり、状況的に犬などのペットにあげた可能性も考えたりしてしまう。

 以前百円ショップのレジ横の募金箱に千円札が入ってるのを見つけた時も、そこからその事しか考えられなくなってしまった。
 お釣りを受け取りながら、ふと見た中身が透明なタイプの募金箱に千円札が入っていて、精算後にレジ奥のカウンター台でリュックに商品を詰めながら「やっぱなんか変やなぁ」と、もう一度募金箱を確認するがやはり千円札が入っている。
 募金箱に千円札が入っていること自体は特に不思議ではない。僕がコンビニでバイトしていた時など、五千円や一万円を募金している人は少なからず存在した。

 ただ百円ショップというのは、そもそもコンビニやスーパーで買うと二百円〜三百円する商品がたった百円で買えるというのがメリットである。最近ではオリジナルの便利グッズや、品揃えの豊富さでお客さんの心を掴んでいるとはいえ、やはりその根底にあるのは低価格でクオリティーの高い商品が並ぶ、そのコストパフォーマンスにある筈だ。一度しか使わない消耗品など、百円ショップで見つけたら得した気分にさえなれてしまう。
 つまりなるべく費用を抑え購入したいという、安さを求めた人間が訪れる場所なのである。

 そう考えるとせっかく安さを求めてわざわざ百円ショップまでやって来た人間が、最終的に募金箱へ千円も入れて帰るだろうか。元も子もなくなってしまう気がする。
 だったら最初からコンビニ行けばいいわけだし、なんならコンビニで買うより高くなってるんちゃうんかなと気になってしまう。
 どういう思考を辿ってそうなったのか…。待てよ、募金をする為の場所を探してて最初にあったのが百円ショップやった可能性があるんかな….。
「どう思う?」とここで隣に誰かがいたら口に出して聞いてしまうのである。

 考えごとの話から、脈絡なく突然喋りかけてしまう経緯を友人に説明してみたが、「いやだからそんな事ある!?」とやはりあまり信じてもらえなかった。
 すると今度は突然友人の方が、店に入ってきた一人の客を指さして声をあげた。

「おー!えーっ何してんの!?偶然だな!」、そう言いながら立ち上がり相手に近づいて行ったのだが、今度はまた突然「あっすいません!」と逃げるように僕のいる席に戻ってきた。「どうしたん?なんかあったん?」と尋ねると、友人は照れ臭そうに言った。

「いや、よく行くご飯屋の店員さんなんだけど、顔めっちゃ知ってる人だから、一瞬友達だって勘違いして喋りかけてしまった…、注文以外で会話なんて全くしたことなかったのに….」

 …いや、そんなことある?


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