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元彼に会ったけど、目も合わなかった。

今日、元彼に会った。

もうすぐ別れて2年になる。
同じ職場に勤めていても、支店が違えば意外と会わないもので。たぶん別れてから顔を合わせたのは2回目か3回目になると思う。

今日は仕事の関係でどうしても彼の勤める支店に行かないといけなかった。同行者である先輩は「行ける?大丈夫?」なんてむやみやたらに心配をしてくれたが、別に大丈夫である。
別れてからもう2年。未練も何も、ない。

私は就職活動中の学生たちを引き連れていて、彼はその学生たちに話をする代表だった。

同期としてこの会社に入社して5年。お互い色々と経験を積んで、いつの間にかこうやって会社の顔として働くようになったんだななんて感慨深くもありながら。

私が学生に会社の説明をしている間、同行者である先輩が彼を呼びに行った。
遠くから彼と先輩が楽しそうに話す声がして、その声はゆっくり近づいてくる。
私はそちらを向くことが出来なかった。意識的に学生たちと目を合わせながら、背中に変な汗をかく。

彼と先輩の姿が横目に見えた。彼の話し声が止まった。「え。」という呟きがこちらに響いて、学生の何人かが彼のほうを向いた。
「ああ、そういえば。今日はもち子がいるよ。」先輩が敢えて明るい声を出してみせた。私が来ること、言ってなかったんかい。心の中で先輩にそう悪態をつく。
私は自分の話を続けることで学生の目線をこちらに戻す。一区切りがついたところで、先輩にバトンタッチをした。先輩が学生の前に立つのと一緒に、慌てて彼もついていった。

目は、合わなかった。

就活生の前で堂々と話す姿を眺めながら、相変わらず調子のいいやつだな。と笑う。私は彼の面白いところが好きで、こうやって人前でも臆せずに自分の言葉を話せるところを尊敬していた。
先輩と夫婦漫才のように掛け合いをしていた。付き合っている頃と変わらないボケを、まだ言っていた。ウケたら一生やるタイプだ。

15分程度の出番を終えて、彼が学生の輪から外れた。その瞬間に彼に駆け寄る後輩。「これ分からないんですけど、」「ん?どれ?あー、これちょっと面倒なんだよな…」そんな会話をしながら、彼は後輩と消えていった。
私の存在は見えていないかのようで、同期なのに、まるで知らない人みたいで。

学生たちを見送って、先輩と帰路につく。
「私がもち子いるよって言った後、ずっと小さい声でなんか呟いてた(笑)」他人事だと楽しそうに笑っている先輩に腹が立つ。
「呟いてた?」「うん。なんか気まずい~とか、でも顔見れて嬉しいとか。」「はは、何ですかそれ。」

気まずいなんて言うなら、一度くらい目を合わせてくれればいいのに。私は別に、気まずいつもりなんてなかったのに。

「いい女だった。」

元彼が、別れてから事あるごとに私のことをそうやって言ってくれているのは、知っていた。

なんで別れちゃったの?と言われればもう鮮明になんて思い出せないけれど、「いい男でしたよ。」と素直な気持ちで答えている。

もう恋人には戻りたくないけれど、同期として毎日バカみたいな話をしていた頃は仕方なく恋しい。
私は、全部のボケを拾ってくれる彼との会話が好きだったから。

あーあ、今日もいい男だったな。

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