見出し画像

秘書機械 -ロジックシープ-【夢で見た物語 特別編】

今回の夢物語は、いつものような「夢で見た中二物語」に分類するにはあまりにシリアスすぎるのと、暗く淡々と進む悲劇系物語なので、あくまでも特別編と銘打っております。

ジャンル的にはSFかサイバーパンクか近未来ものかな?と思いますが、かなり暗く悲しいお話であり色々と考えさせられるような内容だったので、その辺りをご理解いただけると幸いです(さほど長くはありません)。


☆☆☆


携帯電話やスマホを一人一人が持つのが当たり前になった時代があったように、現代においてはいわゆる「秘書機械」がそれらと同じ役割をこなしていた。

AI搭載秘書型機械「ロジックシープ」、開発当時はその機械の及ぼす経済性も怪しまれ、何よりも高価すぎて一部の富裕層しか手に入れる事が出来なかったような代物だ。

それが今となっては小さな子供にさえ一人(正確には一体)ずつ付き従い、「携帯電話」「スマホ」「パソコン」の全機能を備え、挙げ句の果てに個人個人の全てのスケジュール管理、そして家事や仕事までも綺麗に完璧にこなしてしまう程であった。

「機械が何かを一つ出来るようになる度に、人間は何かを一つ出来なくなる」なんて事まで言われ始めて早十年。

ロジックシープは一番の難関と言われていた「感情」まで支配下に置くまでとなり、見た目も人間とほぼ変わらないアンドロイドなので、正直ぱっと見では見分けもつかなかった。

・・・その「感情」も「見た目」も、あくまでも誰か人間が作り上げたものには変わりなかったが・・・。



ロジックシープには精密な音声認識機能が備わっていて、初期設定でも途中からの設定でもって、一声かけさえすればいくらでも自由自在に設定を変更する事が出来た。

感情システムが不要と感じれば即座にオフに出来たし、声も歩き方も髪の色もその他ほとんど何でもすぐに変更が利いた。

ロジックシープが主流になるまで、機械嫌いの為にその所有を拒んでいた一人の男性が妻と娘にロジックシープをプレゼントされたのは、そう遠い昔の事ではない。

男性の妻と娘は、未だにお堅い考えを持ち続けている彼の為に、ワザと「人間らしい感情」を強めに出したロジックシープをプレゼントする事にした。

それがどうもバランスが良かったらしく、お堅い性格の男性と柔らかい性格のロジックジープという丁度良い雰囲気の組み合わせが成立した。

男性ははじめ不審がっていたが、まぁ別に構わないかといった風に次第に馴染んでいった。

ロジックシープは確かに便利で、感情設定の影響でよく人間らしいミスをしたが、その辺りは機械らしくもあって致命傷になる程の大きなミスはしなかった。

男性の妻も娘も忙しい身で、よくお互いに顔を合わせる事が出来ない日もあったので、ある意味癒やしの存在ともなっていた。



ある日、男性の妻と娘が同じ車に乗っていて大きな事故に会い、二人とも亡くなったという連絡が入った。

すっかり自動運転が広がった世界では滅多に起こらなくなったような、ひどい事故だったという。

悲しむ間も無く後処理にかかる忙しい日々が過ぎ、やはり機械も完全には信用出来ないと思い始めた頃の事だった。

男性のロジックシープがまた小さなミスをして、それが妙に癪に触った男性は普段出さないような大声でロジックシープを強く叱責した。

「何故そんなミスをするのか」、「機械なら機械らしく数字を間違えたりするな」、「人間の真似なんかするんじゃない」と。

・・・それは多分、愛する者達を一時に亡くしてしまった悲しみと何も出来なかった自分に対する怒り故に・・・。

ロジックシープは感情を持つ故にひどく驚き、しばし何も言えなくなってしまう。

そんなに大きなミスではなかった、ただ数字を少し言い間違えたくらいの誰でもやってしまうようなミスだった。

それから突然、ロジックシープは姿を消した。

通常であれば自分の電池が切れかけている事に気付いて自分で充電をしに行く、それくらいの時しか男性の前から勝手にいなくなったりしないのに。

相当ショックだったのかは分からないが、何だかんだでロジックシープがいなくなると困る男性は、イライラしながら秘書機械を探しに行った。

秘書機械は、男性の経営する工場の片隅に座り込んで落ち込んでいるように見えた。

まだ人間の真似をするのかと怒りを感じた男性は再びロジックシープにその怒りをぶつけようとしたが、ふと様子が変だと気付いた。

ロジックシープの目は通常時のような人の目に似せた映像が映っているのではなく、警告灯のように赤い光を発していた。

そして胸元にある電子パネルには、「設定変更中」の表示が出ていた。

何も設定したはずではないのに何事かと見ていると、しばらくして何事も無かったかのように立ち上がった。

しかしそれ以降、その秘書機械から発せられる言葉、そしてその行動のすべてが今までのような感情を一切取り払った「無駄のない」「機械的」なものへと成り代わっていた。



・・・男性は、データの復元方法を探していた・・・。

日がな一日、見つかりもしない情報に目を走らせていた。

あの日からずっと、ロジックシープが自ら完全に「削除」したと思しきデータの復元方法をネットで探していた。

例の感情に伴う機能とデータ以外、男性のロジックシープの全機能は一切問題なかった。

ロジックシープはあの日の男性の叱責を命令と捉え、自ら設定を変更していた。

それに伴って、自らの内にある「感情」に関するデータを完全削除、勝手にクラウド上に入る事になっているはずのデータまで綺麗に消えて跡形もなくなっていた。

更には「感情」の機能自体、初めから存在していなかったかのように破損し復元不可能となっていた。

機械が苦手な男性は、それでも探し続ける。

機械というもの自体、一切の融通が利かないものと分かっていても。




_所詮、機械の感情なんて誰かが作り出したものだ_


_結局は、1と0しか存在しない世界の産物だろう_


_ただの情報の集積だ、くだらない_


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


_なんでそんなものに、人間味を与えたりするのだ_


_こんな風に色の組み合わせの液晶なんか見続けていても、何にもならない_


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


_くだらない、本当にくだらない_


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


_                  _


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




今手元にあるのは、妻と娘についていたロジックシープ達が残したクラウド上のデータだけ。

あの事故の日、彼女らのロジックシープも壊れて原型を留めない状態だったから。

毎日が忙しくて休みも取れない中、ロジックシープは彼女らの活き活きした姿の写真を多く残してくれていた。

それは、感情を持つ秘書機械が「美しい姿」と認識して撮ってくれていた美しい写真群だった。

男性のロジックシープ内にも、男性が妻や娘と過ごした僅かな日々の写真が他にもたくさん記録されていたのだと思う。


だから男性は探し続ける、自らのロジックシープが美しいと思った風景を。

もう笑う事も出来なくなってしまった、仕事も手につかなくなってしまった自分の感情を。

・・・もう二度と戻らない、「美しく愛おしい」人達の姿を・・・




_データが読み込めません、データが破損しています_


_復元しますか?_


_復元出来ませんでした_


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


_データが見つかりません_


_検索範囲を変更しますか?_


_データが見つかりませんでした_


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


_破損修復ファイルをダウンロード、実行します_


_破損の復元は出来ませんでした_


_機能が見つかりません


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


_こちら、サポートセンターです_


_機械の買い替えをご検討ですか?_


_現存のデータの移し替えは可能ですが、クラウド上に残っていない破損したデータの復元は承っておりません_


_誠に申し訳ありませんが、買い換えを検討されない場合、全て初期設定から行なってください_


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


_ロジックシープはお客様と共に成長するようにプログラムされたAIです_


_ロジックシープが成長するに伴って、お客様もますます飛躍の道を進まれる事を願っております_


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「                  」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・















中高生の頃より現在のような夢を元にした物語(文と絵)を書き続け、仕事をしながら合間に活動をしております。 私の夢物語を読んでくださった貴方にとって、何かの良いキッカケになれましたら幸いです。