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あいつ(ショートショートショート

あいつ…
また…

俺は隣の席を見て
ため息をついた

昨日の夜
となりの「あいつ」から
LINEがきた

”しばらく
自分探しの旅にでる”

…また、始まった…

あいつは
数ヶ月に一回
こんなLINEを送ってくる

最初は凄く心配になり
何度もLINEも電話もした

だが、着拒されてるのか
応答がない

便りがないのは…
いやいや、気になるって!

数日後
何食わぬ顔して学校に現れる

やぁ!

クラスのみんなは気にも止めていない

「なんで電話に出ないんだよ!」
「ごめんごめん、手が離せなくて」

話を聞けば、ゲームの中を
『旅』してたと…

おい!待てよ!
なんだよ、それ!

僕は怒った
だけど
涼しい顔をして笑うだけ

はぁ
僕はため息をついた。

そんなこんなでしばらく
あいつはきちんと学校に来ていたのだが
ある日、なんの連絡もなく、あいつが
学校を休んだ。

風邪でも引いたのかな?と
LINEをしたが、既読はつかなかった

1週間が過ぎ
2週間が過ぎた

あいつは登校してこない

同級生のAに
あいつの事を聞いてみた

「誰?それ?」

同級生はポカーンと僕を見た

「えっ?ほら、あいつだよ、あの席の…」

僕はあいつが座っていた席を指さそうとした…が…
思い出せない…

「なんだなんだ」

他の同級生も集まってきた

「実はさ…」

Aが事情を話す

ザワザワとし始める
みんな知らないという

なんでだ?
ずっと、ここにいたはずなのに。

「あのさ…」

Gがざわつくクラスメイトの間から
顔出した

「もう一回、名前聞いてもいい?」

僕はもう一回、あいつの名前を言った

「…それってさ、ゲームの主人公の名前じゃない?」

えっ?まさか、ゲームの世界から、
あいつは来たというのか?

ざわついていたクラスメイト達が
黙る

ひやっとした何かが背中に走る

クラスメイト達が薄気味悪く笑う

「黙って知らん顔してれば良かったのに」
Gの顔が歪み始めた

「君は知り過ぎたんだよ」
Aがニャリと笑った

GとAがニヤニヤと笑いながら
僕に近づいて来た

目の前が歪む
目がチカチカして
頭が痛くなり気持ちが悪くなって来た

「知り過ぎた君にはお仕置き…」
意識が遠のき、最後は聞き取れなかった

はっ!と気づいた時
僕は自分のベットで寝ていた

真っ暗な部屋
チカチカするテレビ画面
そこに写っていたのはあいつだった

トントン

ドアをノックする音に
恐怖を感じて震えた

ドアが開き
「大丈夫?変な声がしたけど」

布団から恐る恐る顔を出すと
そこには!

母がいた

「あ、あのさ…」

僕の声を無視して

「熱が高いからうなされたのね」
と体温計を渡された

38度

「また、上がったわね、解熱剤を用意してくるわ」

と母はいい、ふと、つけぱなしのテレビに
目をやり

「テレビ見ながら寝てるから、変な夢をみるのよ」
と電源を落とした

真っ暗になった部屋で
僕は「あ、夢だったのか」
とため息をついた

ドアが開き母が入って来た
「さぁ、解熱剤よ。これ飲んだらきっと楽になるわ」

母に言われるままに解熱剤を飲むと
眠気が襲って来た

「ゆっくり寝なさい。朝になったら
全て忘れるから」

母はそう言って部屋を出た。

”全て忘れる”?
母の言葉が引っかかった

母の声がした
ドアの隙間から漏れる灯り

「大丈夫です。高熱による夢という事にしました。
この薬、解熱剤と言って飲ませましたし、
明日には全て忘れてるはずです」

うんうんとうなづく影
チラリと見えた横顔

❗️❗️

そこにいたのは…

まさか…

暗闇の影
ニャリと笑った目

その目に向かい
何かを言おうとした瞬間
僕は意識を失った

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