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サヨナライツカ*ひとりひとりの孤独

2月28日から新宿の伊勢丹で辻仁成さんの個展があるので、
気になるところではある。

長く愛読している人や、つながりの続く人に、
勝手にシンクロしてしまうのは、ユングのいう集合的無意識なのだろうが、
良く分からないので、好きに言ってろと自分ひとりで突っこむ。

若い子で、自分が見えるオーラを絵にする画家もいるのだけれど、
辻仁成さんが対峙してるものはどんなものだろうと単純に興味がある。

彼は「第六感日記」としてさまざまな不思議な話も語る。

この1月24日の日記で、
ダックスフントの三四郎は無垢なので頼もしい、と語っている。

私もその言葉はとても良く理解できる。

仮設住宅住まいの休みのたび、2、3時間でいいから、
どこからか赤ん坊を借りてきて抱きたくてたまらないと思った。

そんな赤ん坊はどこにもいなかったので、
半日くらい、ボーッと空き地を眺めて過ごすことも良くあった。

心身ともに疲れ果て、遠くの病院に受診しても悪いところも見つからず、
疲れを感じられない心と、境目のどこかを見つけられない頭に苦労した。

右膝は水を抜いた後も歩くのに難儀するし、
左肩は、着付けの腰ひもでキリキリと縛られてるみたいに肩が凝る。

毎日眠れず、一日がとても長い。



休職して、やたら朝から部屋の整理をしはじめた春分の日のことだった。

家族がふと思い立って、
除霊ができる知人の男性に連絡を取ってみると言った。

ちょうど何の予定もないと、袋いっぱいの塩を持参した彼は、
私を見るなり挨拶の前に、

「奥さん、背中に斜めに大きな人を背負ってるよ」と教えてくれた。

彼にはそういう見え方をするんだろう。

近くの小さな川に連れていかれて、なにやら訳の分からない言葉を発し、
軽く背中をたたかれて、そのあとに麻痺したかように、軽くなった。

「大きい人を剥がしたら、中から小さい人がたくさん出てきましたよ」

「・・・」

「あなたは人のことを公平にしなければいけないです。
どんなにその人が大変でも可哀そうでも、
それはその人が自分でなんとかしなければいけないんですよ」と語った。

「大きい人って誰なのか分かるんですか?」

心当たりのある私は、思わず尋ねた。

口ごもる感じで、一呼吸置いて、
「ただみんな成仏したかったんでしょうね」とだけ、話した。

その表情を見て分かったから、私は尋ねたことと、
ものごとに執着してきた勘違いの自分をひどく後悔した。


何年かして、似たような思いからの体験をした男性に出逢った。

お互いが話す為に縁があったのかな、と思った。

3.11後、早期から小中学校に教育の支援をしていた方だ。

「ともかく自分の目の前で、知らない誰かが立って、
自分の代わりに喋っているのは分かっていた。

だけど、はたから見ると喋っているのは私なんだ。

そんな現象がずっと続いて、たぶん体が持たなかったんだろう。

倒れて救急車で病院に運ばれた。

そんなおかしな話を仕方なく説明したんだ。

そしたら『大丈夫。似たような経験で倒れた方はあなたで7人目だ』って。

自衛隊員に、警察官に、って指で数えて教えてくれたよ。

医者がそういうんだ。

だけどどこも悪くないから、そういうのに有名な神社でお祓いした」

「本人しか分からないですよね」

「不思議なことはたくさんあったよね」

そういって二人で思い出して、しんみりした後に、
「みんな頭おかしかったんだから、仕方ないよな」と笑い飛ばした。

ひとりひとりは孤独だけれど、寄せ集まれば少し暖かくなる。

汚れた心を持たない人となら。



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