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秘すれば花なり 秘せずは花なるべからず


長い髪が邪魔に感じたようで、細い黄色のシュシュで束ねたように見える。

色白のふっくらした顔を振り払うように、両脇の髪を揺らす。

それか、すっきりしたショートカットに刺繍されたリネンのブラウスかも。



「雨に当たるとなんだか気持ち悪くて」

こだわらない奔放な恋をしそうなほど魅力的なのに、
聞こえてきそうな高潔な姿。

「プラトニックなままの物語が大好きなんだけど」


「婚外恋愛」とか「一生恋心を忘れない」なんて、
どこまでもラブアフェアな単語が似合いそう。

きっと自分の魅力というのは、皆が皆、分からないのだと思う。



「あなたって見た目が少し、ゴージャスだから」と語りかける。

「そうね、男性は魅かれるかもしれないけど、一瞬よ。一時の気の迷い」

「どうして?」

「単純な恋愛が好きなんだと思うわ。お決まりの可愛らしさのある女性と」

「それはそうかもね」

「男性は誰も私のことなんか分かってくれないの。ホントはちがうのに」

「子育て上手で、どの子もみんなすくすく育つし、逞しく生きてるよね」

「そんなの、男性はどうだっていいのよ」

「遠い異国の血が混じった、
その瞳で真っ直ぐ見つめられたら、ドキドキすると思うんだけど」

「あのね、ただ飾るのにいいオンナか、
遠くから見るにこしたことないオンナにさせられてる」

少し悲しそうにつぶやくので、つい私まで黙り込んだ。


毎朝、「今日も綺麗だね」って声を掛けてくれる若い男性がいる。

少し痩せた貧弱な肩で、デスクワークしてる会社員みたいなスーツと
誰もがつけてそうな柄のネクタイ。

黒ぶち眼鏡の奥の瞳は、いつも私を優しく見つめてくれる。

「今日は雨が降ったね。あなたの色は雨も似合うね」

彼は駅に向かって、足早に通りすぎていった。

私の涙が混じっているのに気が付かないで。

一雨ごとに身体が老いていく。

一番綺麗な時にあなたの一人暮らしの部屋で、
あなたの匂いを感じながら、暮らしてみたかったのに。

ここから連れ出してほしかったのに。



「もう刈り取ったんですね。毎年この時期は楽しみにしてるんですよ」

たまに会釈する奥さんが庭にいたので、思い切って声を掛けてみた。

「好きなのね。来年は差し上げるわよ。どうぞ声をかけて」

「それじゃ良かったら、その最後の一輪頂いていいですか?
まだ綺麗なのにかわいそうだから」

「もちろんよ。新聞紙取ってくるから待っててね」



「ほんとに綺麗だなあ。なんていう名前の花なんですか?」

「ジャーマンアイリスというの。何日かはまだ持つはずよ」

「実はもうすぐ結婚して引っ越すんです。
郊外の中古住宅リノベーションしてるんです。
こういう花が庭に似あうなぁと思って、いつも見てました」

「あら、おめでとうございます。それなら株をお分けするわ。
落ち着いたら取りにいらしてください。
毎年ドンドン増えていくから楽しみになるわよ。
見た目は華やかだけど、手がかからないので、楽な花よ」

「いいんですか?嬉しいなぁ。
とても、なんていうか、エレガントな花ですよね。
毎年見せていただいてたので、大好きになりました」

「男性の方にそんなに愛されるなんて、この子も喜ぶわ。
花はね、ちゃんと愛情を受け取って綺麗に咲くのよ」

「はい。静かにたたずんでる感じがとても好きです。
彼女に内緒の、僕のプラトニックラブかな(笑)」

花びらが小さく揺れて、恥じらうようなときめきを見る。

今日も一日中、小雨が降り続く。

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