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100歳の死に方

聞くところによると寝たきりになっているという。

手指は見たことないほどむくんでいて、
ヘルパーさんが毎日やってくる。

時々摘便したり、自然に排便したり。

月に一度は往診のお医者さんがやってくる。

もういつ亡くなってもおかしくない状態。

食事はほとんど取らない。

話しかけると、たまに「ありがとうございます」とか、
何かの一言が返ってくることがあるという。

「こういう人こそ、安楽死させた方が本人は楽なんじゃないのと思う」

おばあちゃん子の孫は語る。

早くどうにかして楽にしてあげたいし、
自分だってこの心配から楽になりたいという綱引き。

「本人にとっては幸せだと思うのよ。
なにしろ自然に我が家で枯れていくんだし」

「なんか皆同じようなこと言う・・・」

「それだけ皆経験して来てるってことよ」

何かで読んだけれど、どこかの島の昔の風習では、
食べなくなると仏間に寝かせて枕元に水だけを置くという話だ。

やがて一週間ほどすれば自然に天に召されてしまう。

むくみが酷くなって体液が足の腫れも引き起こす。

もう生命エネルギーが少なくなっているのだという。

寝る時間が多くなり、下顎呼吸になり、ついに静かに時を閉じてしまう。

自宅でそんな風に過ごせることが自然な枯れ方なのだと思う。

最後まで回りのお喋りや身近な人達の気配を感じている。

気管を切開されたり、勝手に栄養を流し込まれたりしながら、
知らない人達に囲まれて、
笑いも涙も感じられない空間に置かれるのはどうなのだろう。

「安楽死は自分のために取って置いた方がいいよ。
おばあちゃん世代はきっと自然派だから。
そのうちAIが安楽死なんかを勧める時代も来るんじゃないの?
私は長生きするつもりだから、何かあった時は安楽死を選んで、
夢枕に立って結果を教えてね(笑)」

「分かった。安楽死最高ですぅとか、やっぱダメですとかね(笑)」

「身内は80や90過ぎてもまだ早いと思うのはみんな同じだから。
一生懸命声だけは掛けてあげて、頑張って」

「うん、分かった」

「100歳まで頑張ったんだから立派よ。
這うように畑の草取りしてたの見たことある」

ひとは死ぬことで家族に絆をのこしていくのかな、と思ってしまう。






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