かるくてつめたい恋ばかり

広い駐車場に　カティサークの瓶が転がっていた

誰かが落として　割った瓶かも知れないと思うのは

底が無くなっていて　蓋が開いていないから

だけど　喧嘩して　酔っぱらって
「やってやるぞ」
なんて　漫画のようなセリフで
抑えきれないひとが振り上げた　威嚇のような割れ具合

転がったままの緑色のガラス瓶が　陽をあびてなんだか綺麗

優しげな色をした　帆船の絵が描かれた黄色のラベル

割れたガラスはゼリーをすくった時のような流線

初夏に置き忘れた春のような
その白く乾いたコンクリートに映える　キラリとした色が
流れた時間の物語を　紡ぎ出してしまう

瓶の底のカケラだけが片づけられていて
その慌てた様子の状況を伝えている

ただ割って落としただけかも知れないのに
コンクリートに染み込んで行った　
軽いスコッチの甘い香りが
想像の中で溶けだしていく情景に　心が動く

もしひとりの買い物客のものだったら
舌打ちするくらいで　忘れられたのかも知れない

ふたりの買い物客のものだったらと
あらゆる会話が　想像の中で矢継ぎ早に聞こえてしまう

こんな綺麗な色のガラスでなければ
想像も蓋をしてしまうんだけど

「つめたいひとが好き
だから他のひとと同じ優しさなんて見せないで
つきあってくれるならカティサークで夜に乾杯」

「シュワルツ・カッツの緑とならべて
白ワインも一緒に飲もうよ
今夜は　あなたの黒猫ちゃんになって
お喋りなあなたのそばで　ずっと聞いてるから」

緑色のガラスの平和な写し絵

お手軽な恋愛しか拾えない

「ずっと抱きしめていて」

そんなお酒を探したいのに