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【超短編小説】 名句の誕生

俺のはなしをきいて欲しい。その日は春の、晴れた日のことだった。俺は天国から地獄へと突き落とされたのだ。

俺の名は水芭蕉。最近、俳句に目覚めて俳句の達人を目指している。噂では、むかし芭蕉というすごい俳人がいたらしく、ならば、とこの名前にした。俳句の勉強は、もっぱらテレビ番組でしていて、毎週かかさず観ている。その番組の出演者は、俺にとっての先生なのだから、先生と呼んでいる。夏井先生、梅沢先生、くっきー!先生。俺は、名句を生み出すべく自室に籠った。

さて、まずはどう始めようか。俺は名前からもわかる通り、水が好きだ。海、川、池、お、池なんてどうだろう。ただの池ではつまらない奴だと思われる。古池、にしようか。これで四音だから俳句っぽく「や」をつけとこう。
「古池や〜」
よしっ、なかなかいい出出しだぞ。

突然ぴょん、と頭の中にカエルが登場した。カエルかぁ。池と蛙。池を「や」で切ったあとに蛙は近いかなぁ。うぅぅむ。俺は、はらわたをしぼって考えた。
いや、自分の直観を信じよう。
蛙だ。
飛び込ませてみるか。

ぽちゃん

え。俺は富澤赤黄男級の大音響にうたれた。天からの啓示のようでもあり、頭上からその音が響いた。
おおおおお、これだぁ、おおお、落ち着け、落ち着け俺、ここは下手に言葉を足さないほうがいい、そのまま、「水の音」としよう。

春そのもののような蛙の飛び込み
波紋。深まる静寂

俺は名句の誕生に身震いした。
これはやばい。梅沢先生、くっきー!先生、いやいや、夏井先生にだって負けない名句が誕生したのではないか。

「ひゃほーい」
「ひゃっほーい」
気付くと俺は小躍りしていた。
「いやっほーい」

隣の部屋から「うるさいぞ」と弟が文句を言いにやってきた。深々と頭を下げたあと、出来立てほやほやの名句を披露した。

「古池や蛙飛び込む水の音」

ドヤ顔の俺。

弟は、ぽかんとし、目をパチパチさせ「それ芭蕉の俳句じゃん」と言い残し去っていった。






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