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【超短編小説】楽園


胸の奥の扉を叩いてみてください。
カフェ『楽園』は辛い時、苦しい時、寂しい時、いつでも、最高峰のコーヒーを味わう事が出来ます。


☆☆☆


「コンロンサンです、どうぞ」
店主が、伝説のコーヒー〈コンロンサン〉を音一つたてずテーブルに置いた。
畳くつろぎスペースでは俊成卿女らしき人物がうたた寝をしている。
「ミルクと砂糖はどうなさいますか?」
「いえ、けっこうです」
「では、かわりのサービスです。ん、ん、あーあーあー

珈琲の匂ふあたりのうたた寝は夢も昔の袖の香ぞする

イェイ♪こほん。失礼しました」

いやいやいや、本歌取りの域を越えてるで、と思ったが黙っておいた。変わった店主だ。
まずは、香りを愉しむ。日常のもやもやとした感覚、ストレス、悩みをコンロンサンの香りが優しく包み込んでくれる。私のいる何製なのかわからない洗練されたデザインのテーブルの側に、水槽らしきものが置いてあった。中には美しい水のようなものが入れられていて、その底には500円玉くらいの穴があいていた。私が、コーヒーを飲もうとしたその時、私は穴に落ちていった、くねくねずんずん、くねくねずんずん、落ちていった。
ストンっと着いた先は、ざっと東京ドーム3個分くらいの空間だった。

そこには、巨大な龍がいた。


☆☆☆


「おっ、おはようございます」
私は驚きのあまり挨拶してしまった。
「あ、おはよう」
普通に返すんかいと思ったが黙っておいた。
それにしても、この空間は何なのだろうか?龍のまわりには振動のような緊張があった。けれども不思議と落ち着く。落ち着く珈琲のような良い香りに満ちていた。
「願いはそれでよいのか?」
「はい?」
まだ何も言ってないんだけどと思ったが黙っておいた。
「よしっ、最高峰の珈琲が飲みたいんじゃな!叶えてやろう!」
「えぇまだ何も言ってな

龍の眼が眩く光った。


 ☆☆☆


「イェイ♪いかがでしたか?」
「今のは一体……」
「ここを常識で考えないでくださいませ。想像力を存分に発揮してください。想像の海を泳いでください」
「はぁ」
「ここを、ご自分の楽園にしていただきたいのです」
「楽園ですか?」
「はい。ここをご自分の好きなように創造してください。そして何かあった時、ここを訪れてください。心の支えとなってくれるはずです。
例えば重吉という変人の『楽園』はこうです」
「え?」

店主は、コーヒーを音ひとつたてずテーブルに置いた。
「コンロンサンです、どうぞ」





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